一日一文企画

応える

「ふたりとも、すごい連携だったな」 肩慣らしに近辺のちょっとしたいざこざを片づけてきて、石の家の共有スペースで紅茶を啜るグ・ラハ・ティアは、そう呟くと感嘆の息を洩らした。

憂う

「神はすべての人に救いを与えるが、救いとはなんだろうか。それがわかるか?」 「どうしたんだよ? 急に」 「戯れに、貴様の考えを聞きたかっただけだ」 言峰は口元に薄く笑みを貼り付け、いつもの笑っているのかいないのかわからない視線を俺に投げた。

疑う

……そんなわけないだろ。君が、僕のことを好きだなんて」 にべもなく振られたのだと気づくまでに少しかかった。彼はいつもの涼しげな笑みでそんな言葉を放つと、何もなかったようにカップに口をつける。

気づく

書類の小さな文字を指でなぞる。報告書の一部であるらしいそれは、一応チェックしてくれと渡されたものだった。普段ならこんなことはやらないが、いま自分の役割はこの組織でドクターと呼ばれる人物の秘書である。未だにどうしてこんなところにいるのかわからないけれど、思いのほか心は冷静に、並べられた文字をなぞった。

壊れる

「あっ……」 リーンが小さな声をあげ、ガイアは彼女のほうを向くとどうしたのよ、と言う前に状況を理解した。その華奢な指のなかで、イヤリングが壊れている。それは確か、あのサンクレッドという男に贈られたものと言っていただろうか。

傷つく

任務から帰ってきたその姿を見たとき、心臓を鷲掴みにされたような。胸に痛みを感じた。いつも閉じているシャツのボタンは傷に負担をかけないよういくつか外され、巻かれた包帯が覗いている。よく見るとこめかみの辺りにも、皮膚を傷つけたのか四角い絆創膏が貼られていた。

求める

人は何かを追い求めることで生きている。そう思うようになったのは、彼を見ていたからだ。一見なんの欲もなさそうに見える人間ですら、ただ生きるということだけを求めている、のかもしれない。人間というのはとても奥が深く、そして同時に興味深い。しかし果てがあるものでもなくて、だからこそいままで知ることを避けていたのかもしれなかった。もちろん知識にも果てはないが、ほとんどどんな疑問にも答えが用意されているから。

戯れる

……ん」 ぺろ、と首筋を舐められた。時折彼の行動は人というよりも獣に似ていて、それでも確かに人の形をしているのだからひどくアンバランスに思える。目を閉じてその背中に腕を回して抱きしめる。服越しに少し早い脈拍が感じられた。彼のその行為に別段意味はないのだろう。

放す

どんなことにも終わりがあるのだと、始まりがあれば必ず終わりは存在するのだと知った。齢十あまりにして、一緒に歩んできた道とは違うものを選んでしまった。そのことは後悔していないし、決して強がりでもない。ただ少しだけ思うときがある。いまでも彼と夢を追いつづけていたら、どうなっていたのだろうと。

染める

「お前らさ、なんか似てきてない?」 「そうか?」 「いや、俺の気のせいならいいけどよ……」 坂本竜司は少し大袈裟に溜め息をつくと、再び昼の渋谷を歩き出した。

隠す

ロドスの代表だという少女は、今日も忙しそうに駆けずり回っているらしい。他のオペレーターや職員とあまり接することがなくても、同じ空間にいれば会話くらいは聞こえる。あのドクターと呼ばれる人物もまた忙しいのだろうが、いったい何をしているのだろうか。