「ふたりとも、すごい連携だったな」
肩慣らしに近辺のちょっとしたいざこざを片づけてきて、石の家の共有スペースで紅茶を啜るグ・ラハ・ティアは、そう呟くと感嘆の息を洩らした。向かいに座るサンクレッドはどう答えたものかと決まり悪そうに頰を掻き、その横でウリエンジェは何も言わず、のほほんと紅茶を飲み続けていた。
「前からよく一緒に戦ってたのか」
「まさか。俺はともかく、こいつは元々内職だぞ。戦えなかったわけでもないが」
笑って揶揄するように言うと、サンクレッドはテーブルの上に頬杖をつく。
「……あちらでの経験の賜物、だろうか?」
少し前まで水晶公と呼ばれていた男はなんでもなさそうに言った。その口調は若干以前に戻っているように思えたが、指摘しようとしてやめる。どちらにしろあまり良くない雲行きだ。
「おい、ウリエンジェ」
「……何でしょう」
「さっきから黙っているが、何か考え事でもしてるのか?」
「え……はい。申し訳ありません、少々今後のことを……」
ある程度予想通りの返事が返ってきて、サンクレッドはやれやれと肩をすくめた。戦いとなれば聡明に判断をし、視線で指示を出せば的確に応え、期待以上の結果を出すウリエンジェだが、ひとたび日常となるといつもの調子に戻る。呆けているというわけではないけれども、なんと言ったものか、自分の世界に入りがちだ。それは第一世界に来る前からあまり変わらない。サンクレッドとウリエンジェが色々な意味で浅からぬ関係なのは以前からだが、それと相手の考えていることが分かるかは別だ。
「向こうでは皆の戦いを見る機会はほとんど無かったから、新鮮だよ。ホルミンスターが襲撃に遭ったときに、アルフィノやアリゼーと罪喰いの討伐にあたったくらいかな」
ふたりのやり取りを見てくすりと笑い、グ・ラハ・ティアは感慨深げに呟いた。
「そのふたりにも劣らないくらい、いい連携だった。オレも見習わないと」
「……まあ、褒められて悪い気はしないが」
「そのように言われるのは……初めてですね」
紅茶のカップを置いてようやく話を聞き始めたウリエンジェは、そう言うとふっと口元を緩める。それから隣で複雑な表情を浮かべるサンクレッドを一瞥し、その一瞬視線が合った。この目の前の男に、自分たちの関係は知られているのかと、榛色の瞳は少し揺れていた。
そこに、ひとつの人影が現れた。この世界で英雄もしくは光の戦士と呼ばれる人物だ。その姿を認めるなりグ・ラハ・ティアは極めて落ち着いた風に断りを入れ、席を立つと、そちらへ小走りに向かうのであった。
「……少なくとも俺たちに、尻尾がなくて良かったな」
彼の後ろ姿を見るふたりは、言った方も言われた方も深く首肯して、彼らが席にくるまで静かに紅茶を愉しんでいた。