どんなことにも終わりがあるのだと、始まりがあれば必ず終わりは存在するのだと知った。齢十あまりにして、一緒に歩んできた道とは違うものを選んでしまった。そのことは後悔していないし、決して強がりでもない。ただ少しだけ思うときがある。いまでも彼と夢を追いつづけていたら、どうなっていたのだろうと。
隣には、彼からもらった手紙がある。アニキと違ってオレはそんなに家を空けていないのを知っているから、時々こうして手紙がくる。メールでいいのに、と前に話したが、メールだと軽すぎるのだと言っていた。彼の書くそれを読むたびに、その通りかもしれないと思う。文面の最後には決まって、時折くるメールと同じ文言があるのだけれど。
「まったく、アイツは……」
分厚い本に栞を挟み、机の端に追いやる。封筒は恐らく同じブランドのものだが毎回違っていて、さりげなくお洒落に気を遣う彼らしいなと思っていた。中身を傷つけないようにペーパーナイフで口を開けて、中の便箋を取り出す。何枚も入っている……というわけではないが、その折り畳まれた一枚に書かれたものが毎回どれだけ濃いのかは、ある程度回数を重ねてきたので知っていた。まあ、中に書かれている出来事の一部は、メディアで見ているから知っているのだけれど。彼の視点から見るのは、それはそれでおもしろい。
ここに記されているのは、オレがかつて手放したもののいくつかだ。もしかしたら、それを共有させてくれようとしているのかも、と思うときもあった。しかしあの好敵手のことだ、そんな風には考えてはいないだろう。ただ純粋に自分に起きた出来事、楽しかったことを教えてくれているだけだ。その終わりは、今度また会おう、と結んであった。
「ほんと、律儀だなぁ」
頬杖をつき、便箋を再び畳むと封筒の中にしまって、机の電気を消した。すでに部屋の電気は消してあり、ベッドの側では枕のような綿毛が眠っていた。ベッドに横たわり、その背中を撫でていると、あの旅した頃を思い出す。それはただあたたかな記憶として、子守唄のように眠りへ誘っていった。