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放っておけない人

「すまない、ちょっと実験室の方に届け物をしてほしいんだが」 「お安い御用だよ。持っていくのはそれ?」 「ああ。本当は自分が持っていくべきなんだが、別のところに呼ばれてしまって」 「気にしないで。君は忙しいからね、ドクター」 「頼んだよ、エリジウム」

巡り合う

強い風が癖のある髪を揺らした。思わず目を瞑り、それが過ぎてからゆっくりと瞼をあげる。翳した手に花弁がついていて、軽く振って落とした。そうしてまた前を見て、呼吸の止まるような思いをした。

誤魔化す

その日は少し、後味の悪い仕事をした。と言ってもそんなこと自体は珍しくなく、そもそも双剣士ギルドは都市の暗部を背負っているのだから、仕事をするうえである程度のことは覚悟しなきゃいけない。掟を破るものがみな、必ずしも根っからの悪というわけではないのだから。

舐める

得てして昔馴染みとは、まったく関係ないところでばったり会ってしまうものだ。特にあまり会いたくない相手に限って。たまたまその日は仕事の激務に疲れて、家の近くにある川を跨ぐ大きな橋の欄干に、肘を預けてぼうっと突っ立っていた。

惹かれる

青年は甲板の隅で、静かにヴァイオリンを奏でていた。昼前の甲板は人もまばらで、それに今日は大きめの依頼やそれぞれの用事で艇を抜けているものが多く、珍しいことに彼以外の誰もそこに居なかった。

絡める

こうして改めて指先を絡めさせると、それだけで胸の高鳴りを覚える。キスをしたりそれ以上のこともやってきたが、手を繋ぐという言葉にすればあまりに些細なことが、あるいはひどく気恥ずかしいものに思えるのだと知った。そもそも誰かとこうして手を繋いだりなど、これまで生きてきてしたことがない。

疼く

※漆黒直前のあれ その連絡を聞いたとき、胸がずきりと痛んだ。サンクレッドが何の前触れもなく唐突に意識を失って倒れたと。いったい何があったのか、外傷がないなら何か特殊な術でも受けたのか——様々な考えが脳裏を駆け巡る。それでも、この人生のすべてをもって蓄えてきた知識でも、思い当たるものはひとつとしてなかった。

憧れる

いままでと違うのは、家に帰れば彼がいるということだ。どこか電車で適当なところに行って、何をするでもなくふらふらと歩くのが好きだった。いま思えばあの世界で冒険者をしていたという感覚がそうさせるのかもしれないが、この行動は冒険なんてたいしたものじゃない。ただの散歩だ。