無邪気に、本当に無垢に眠る横顔を見ていると、少しでも悪夢のことを忘れられる気がする。だからと言ってそのまま自分も眠りに落ちられるわけではない。認めたくないがそれは身体が拒否しているからで、眠ればまたあの夢を見て、胃液を逆流させるのだとわかっているからだ。夢を見ないためには熟睡するしかないが、完全に自分でコントロールできるわけではない。自分がもっと成長していれば、ある程度は律することができるのだろうか。
アンナは何かを知っていて、無理をしている。ラーダは無理はしていないが、あの頃彼女に起こった出来事が習慣として残っているせいで、時折それに苦しんでいる。ソニアはソニアで問題を抱えていて、どうすることもできなかった。だからあのナターリアと話をして、何かを得ようとしたのかもしれないが。
騙し騙し、という言葉がある。壊れかけの機械なんかをなんとかその場しのぎの処置をしつつ使うときに使用する言葉だが、いまの自分たちはそれに似ているかもしれない。壊れかけの心をどうにか継ぎ接ぎして、毎日過ごしているのだから。ソニアにはそれが心の奥底でわかっていたが、自分ではどうしようもなかった。いつでも脳裏ではあの日の大きな炎が燃え盛っていて、いつか自分やアンナたちを焼き尽くしてしまうのではないかと怯えていた。
ふたりの少女は、並んですやすやと眠っている。アンナはきわめて静かに呼吸をし、ラーダはその頰に涙の跡を残して。ラーダの手には、訓練か調理の仕事のときに傷を付けたのか、絆創膏が貼ってあった。細菌が入らないように傷口を守って、傷の治りを早めるもの。もしかしたらこのロドスという組織も、それに少し似ているかもしれない。だとしたら……と、ソニアは考えつつ薄いブルーの瞳を少しずつ細めていき、その視界を閉じた。