こうして改めて指先を絡めさせると、それだけで胸の高鳴りを覚える。キスをしたりそれ以上のこともやってきたが、手を繋ぐという言葉にすればあまりに些細なことが、あるいはひどく気恥ずかしいものに思えるのだと知った。そもそも誰かとこうして手を繋いだりなど、これまで生きてきてしたことがない。手を引かれて歩いたことや、手首くらい掴んだことはあるけれど。
相手の方も同じなのかはわからないが、ふたりとも何も言葉を発しない時間が、静寂がそこに流れる。どちらともなく唾を飲み込む音が、その中に響いた。
「……あなたの手は、私の与り知らぬところでいくつもの刃に晒され、無数の傷を付けられた」
指の側面や親指の腹で俺の指の皮膚をなぞり、かの男はそんなことを呟いた。
「傷を癒すのは一瞬、このくらいのものであれば痕も残らない。ですが、傷を付けられたという事実は、依然としてそこに残っている……」
指を絡めていない方の手が頰に触れる。そこには先日ユールモア軍の連中と戦った際にできた、小さな切り傷があった。が、指が触れて軽い詠唱とともに温かな光が発せられると、彼は薄く微笑んだ。見えないから確認できないが、きっと治ったのだろう。いまの彼は癒し手なのだ、と今更実感が湧く。巴術士は回復魔法も使うことができたが、彼らの使うそれよりも繊細な回復魔法だ。
「……この感情は、いったい……なんなのでしょうか」
きゅ、と絡めた指をやさしく握り、ウリエンジェは薄い眉をひそめた。
「それは……お前が、他人に触れられるようになった……ってことなんじゃないか?」
とても曖昧な言葉で、その言葉の先にあることはすべて彼の解釈に丸投げする。ただ、いまのこの男であればいくらか察することはできるだろう。俺は骨ばっているがしっかりした指を握り返し、笑みを浮かべた。
ウリエンジェはそう、ですか、と少したどたどしく返事をして、応えるように微笑んだ。そのぎこちない笑顔は、そうだと良いですね、と言いたいようにも見えた。