疼く

その連絡を聞いたとき、胸がずきりと痛んだ。サンクレッドが何の前触れもなく唐突に意識を失って倒れたと。いったい何があったのか、外傷がないなら何か特殊な術でも受けたのか——様々な考えが脳裏を駆け巡る。それでも、この人生のすべてをもって蓄えてきた知識でも、思い当たるものはひとつとしてなかった。
焦ってはいけないとわかっているのに心が逸る。これまで感じたことのない感覚に、ウリエンジェは戸惑った。彼がアシエンに身体を奪われたときも、エンシェントテレポにて地脈に放り出されてしまったときも、ここまでの感情は持ち合わせていなかった。ただ脈打つ心臓に息を呑む。彼は、その命は無事なのだろうか。ただそれだけが、いつも聡明な彼の脳内を埋め尽くしていた。また自分のあずかり知らぬところで大切な人を失うかもしれない、ということが。
ただじっと待っているわけにもいかないが、どちらにしろ彼の容態をこの目で確認するには、彼と一緒に行動していた光の戦士らを待つしかない。ウリエンジェは部屋にある文献を片っ端から漁りはじめた。どんなに何度も読んで、内容が丸々頭に入りきった本であっても、速読しつつ一字一句逃さないように。何か、何か前例はないのだろうか。彼の身体はアシエンに乗っ取られた影響で通常よりも少し崩れているから、それが原因のひとつにもなりうるのではないか、と思うと、絶望に似た感覚が彼を襲った。前例のないことなら、対策もしくは対処法を立てようがない。
苛立ちを覚えていることに気づいた。正確には、これが苛立ちなのだと理解した。現実と理想の違いに苦しみ、解決できないことに対して行き場のない怒りを、消化できずに抱えたまま。彼を助けたい。どうして彼ばかり、そのような憂き目に遭うのだろうか、とさえ思った。
……サンクレッド……
この呼びかけは届くのだろうか。逸る気持ちを抑えられないまま、ウリエンジェは胸元に手を当てて呟いた。