得てして昔馴染みとは、まったく関係ないところでばったり会ってしまうものだ。特にあまり会いたくない相手に限って。たまたまその日は仕事の激務に疲れて、家の近くにある川を跨ぐ大きな橋の欄干に、肘を預けてぼうっと突っ立っていた。水の流れを見ていると、電気の回路を見ているようで落ち着く。上流から下流へ同じ方向に向かって、ときには不規則に流れていくのだ。そしていつか大海へ合流して、空へ向かい、また輪廻する。そんなロマンチストじみたことを考えていたから、近づいてきた男に気づかなかった。
「何してンだよ」
特徴的な訛りがあるそいつは、陽の光もない夜だというのに黒いサングラスをかけ、おまけに口に細く白い棒を咥えていた。
「……お前、煙草辞めたのか? いつの間に」
数年ぶりに会って交わしたのがそんな言葉だった。
「身体に悪ィからな」
そう言って、赤い飴玉のついた棒をまた口に入れる姿がなんだか滑稽だ。前に会った時は紙の煙草を吸っていた、と記憶している。それがもうどれくらい前だったかも思い出せない。たぶんこの男のことだから、煙草を辞めた理由は他にもあるのだろう。
「なンだってここに?」
「それはこっちの台詞だ」
「そりゃ、そうかもな」
住んでいるところからは少し足を伸ばして、自分を知っているものがいないところを選んだ。だというのに、そういうときに限ってこの男に会うのだ。呪われているとしか思えない。はあ、と溜め息をついて踵を返そうとすると、肩を掴まれた。
「ま、そう急ぎなさンな。どうせ予定もないだろ?」
「余計なお世話だよ」
「久々に会ったってのにな」
「……別に、会いたかったわけじゃない」
吐き捨てると、奴はにやりと口角を上げた。本当に嫌な奴だ、と思うが、シドはこの厄介な昔馴染みが見た目に似合わず熱いものを持っている男であると知っている。自分と同じような、そう形容する以外にない熱いものを。
「そこまで言うなら、止めはしねェよ」
ネロはそう言って、シャツの胸ポケットから何かを取り出し、そのままシドの胸に押し付けた。反射的にそれを受け取ったシドが怪訝そうに見るうちに、ネロは再び棒飴を口に含むとさっさと反対方向へ歩いていってしまった。
「……なんなんだ、あいつ」
ぼやく声が真っ暗な川の水面に落ちて、そのまま流れていった。