その日は少し、後味の悪い仕事をした。と言ってもそんなこと自体は珍しくなく、そもそも双剣士ギルドは都市の暗部を背負っているのだから、仕事をするうえである程度のことは覚悟しなきゃいけない。掟を破るものがみな、必ずしも根っからの悪というわけではないのだから。
「……あの人、どうしてあんなことしたんでしょうね」
視界の下から微かな声がした。口調は問いかけるようだったが、こちらの方を見てもいない。本当はそっとしておいてやるべきかもしれないが、なんとなくいたたまれなくて、言葉を投げ返した。
「人には一時の感情ってもんがある。それに抗えないと、ああなるんだろ」
まるで他人事のようだ、とジャックは心の中で自嘲した。自分が言っているのは、人であるなら誰にも起こりうることだ。自分も、そばを歩くペリム・ハウリムも例外ではない。しばし静寂が流れ、代わりに帰る場所であるリムサ・ロミンサが近づいてきて、喧騒が戻ってきた。
「……いつか、オレも……」
「ん? ……何か言ったか?」
何か呟くのが聞こえたが、都市の喧騒と物理的な距離のせいで何を言ったかまでは届かなかった。ジャックは少し背をかがめて聞き返す。
「いえ……なんでもないです。急ぎましょう、ジャックさん」
「あ、ああ……わかったよ」
あたりはもうすっかり夜になっていて、海上都市に灯ったいくつもの明かりが煌びやかにふたりの男を迎えた。互いにどこか消化不良の想いを抱きつつ、急ぎ足に石畳を進むのだった。