一日一文企画

なぞる

この世界には、光の巫女という伝説がある。百年前の光の氾濫を止めた誰かさんの力を受け継ぐものが生まれては戦って死んでゆき、その輪廻の果てに生き残ったのがリーンなのだという。クリスタリウムの人にリーンを見なかったかと訊くと、博物陳列館に行ったと言うのでそこに向かえば、古びた絵本を読む彼女がいた。

握りしめる

……は、っ」 拳に汗をかいていた。とても悪い夢を見ていた気がする。その記憶は脳裏のどこかにこびりついているようだったが、思い出したくはない。どうせ何度も見たあの夢だ。俺はいつまであの夢を見続けるのだろう、と少しだけ不安になる。

泣く

最後に声をあげて泣いたのは、いつのことだっただろうか。もうだいぶ幼い頃からその記憶がない。あの街で普通に育った子どもが言葉にならない声で泣いているのを見て、疑問に感じたくらいだ。それほどに何を求めるのだろう。何に悲しみ、怒りを感じるのだろうと。

寄り添う

彼の持つ温もりは、何もいつもと変わらない。それでも、その表情は通常のものとは少し違っていた。ふとしたときに見せる寂しげな瞳。恐らく無意識なのだろう溜め息に、緩慢な仕草。失ったものはいつだって大きい。怪盗団の皆は誰しも心に大きな空洞を抱えていて、それを埋めるために、あるいは抱えて生きていくために命がけで改心なんてことをやっている。

振り払う

※年齢操作 「だ、大丈夫だから」 その手を払う余地もなく、それほどの力もなく、小さな身体はひょいと抱き上げられた。こうも持ち上げられては、抵抗したらしたでそのほうが危険だ。サンクレッドはしぶしぶ目の前に現れた、目的のものを棚から取ると「もういい」と不機嫌そうに言った。

信じる

信じていたのに、と人は言う。そのとき同時に、自分が見ていたものはただの思い込みだったのだと失望する。それが裏切りというものだが、一般的には一時的な誤解であったり、本当にただの思い込みである場合が多い。ひとを簡単に裏切れるものなんて、実際はそんなに存在しないのだと思う。

忘れる

始まりがいつだったのか、もう思い出すことができない。そう昔のことではないはずだが、恐らく自分でそれと意識していなかったから。思い出せないのであればもはや出会いの日が始まりだったと考えることもできるのかもしれないが、それはそれ、これはこれだ。そもそも人を好きになる瞬間なんて本当にあるのだろうか。本当は出会ったときから心は決まっていて、多からず少なからずと触れ合うたびにそれに気づいていくだけなのではないだろうか。

見つける

「サボりか。精が出るな」 そう言ってエンカクは、コンクリートの床に腰を下ろした。そこは甲板の上とでも言ったところか、開けたその場所は風がよく通り、今日の天気では日差しを浴びるにはちょうどいい。と言ってもドクターと呼ばれるその男は全身を服とフードと仮面で覆っており、日を浴びるなどということは縁のない風体をしていた。

眩う(まう)

自分にとっての彼は光だった。時折弱くなったり、何かに遮られて光を翳らせたりもするが、その明かりは失われることがない。生命の灯にも似ている。ゆらゆらと揺れる姿すらも美しいと感じたのは、どちらかというと火を見る感覚に似ていたかもしれないけれど。

振られる

「ごめんな」 その言葉が何よりも残酷だった。ただ、そう感じてしまう自分のことも許しがたくて、行き場のない怒りと悲しみが腹の底で熱い血に煮詰められていく。想いを伝えればこうなると、わかっていたのに。自分はどうしようもなくばかだ。何も言葉が出ず、ただ片手で額と目を覆う。

眠る

すやすやと寝息を立てる姿を見て、羨ましく思えるし、憎らしくも思う。羨望と憎悪はかなり近いものかもしれない。冷静な頭でそんなことを考えて、他人事みたいに自分の感情を分析していた。癖のある黒い髪の隙間から覗く、薄く長い睫毛を見ていると、なにか勘違いしてしまいそうになる。この男は自分に心を許しているのではないかと。隣で眠ることになんの違和感もなく、警戒も抱いていないのだと。

祈る

ラテラーノの民であるという彼は、どれだけ信仰が厚いのだろう、と思うときがある。自室にいるときはひとりで祈りを捧げたりするのだろうか。エクシアさんは外見にあの元気さ、あるいら奔放さを持ちつつも、祖国の宗教には一段と深い信仰を保っているらしい。何度か任務で同じ部隊になったことがあるが、斃した敵に向かって何か呟いていたのはそれに関係することかもしれなかった。