眩う(まう)

自分にとっての彼は光だった。時折弱くなったり、何かに遮られて光を翳らせたりもするが、その明かりは失われることがない。生命の灯にも似ている。ゆらゆらと揺れる姿すらも美しいと感じたのは、どちらかというと火を見る感覚に似ていたかもしれないけれど。
「ただいま」
いつの間にかソファでうたた寝をしていたらしい。感覚としては数年ぶりに原初世界へと戻ってきて、本来の身体の調子を取り戻すのもそうだが、自分たちがいない間の情勢がどうなっていたか、まだ掴みかねていた。あの英雄から話自体は聞き及んでおり、こちらではそう時も経っていなかったものの。暁の血盟の者たちがまとめてくれた資料を読んでいるうち、睡魔に襲われたのだ。
掛けられた声に目を向けると、サンクレッドが呆れたように微笑んでいた。
「言われてたもの、買ってきたぞ。確認してくれ」
彼がちょっとした用事で外に出るというので、向こうで生活していて日々の生活に新たに必要だと思ったものを、いくつか買ってきてもらうように頼んでいた。袋を受け取り、中身を確認する。ウリエンジェは静かに頷いた。
「確かに。有難うございます、サンクレッド」
「大した仕事じゃない」
笑顔のまま謙遜して、サンクレッドはウリエンジェの隣に腰を下ろす。
「久々に歩き回って、少し疲れたよ」
冗談めかして言うと、背凭れに体重を預けて目を閉じた。ウリエンジェはその横顔を見て、先ほど感じた不思議な感覚を思い出す。眠りから醒めて彼の顔を見たとき、目眩のようなものを感じたのだ。単に覚醒時の視差による軽い目眩かもしれないが、暗い場所から外に出て強い光を見たときのような。真っ白い髪、健康的な色の肌、それを包むコートの色も混じり気のない白。近くで見ると、何もかもきらきらと輝いているように見える。
……そうですね。少々、此処で休んで行っても……構いませんよ」
その輝きが眩しいのは、彼自身が強くなったからだ。揺れていた光が、大きく確かなものとなった。その結果がいまなのだ、と横顔に感じる。これを彼に言ったら、何を言っているんだお前は、と照れくさそうに苦笑いして嗜められるだろう。反応を見たい好奇心もあるが、唾と一緒に飲み込んだ。
「じゃあ……お言葉に甘える、かな」
いまはその輝きを近くで見ていられる。光の側にいるのなら、自分は影だろうか。そんなことを考えながら、ウリエンジェは静かに肩を寄せた。