「ごめんな」
その言葉が何よりも残酷だった。ただ、そう感じてしまう自分のことも許しがたくて、行き場のない怒りと悲しみが腹の底で熱い血に煮詰められていく。想いを伝えればこうなると、わかっていたのに。自分はどうしようもなくばかだ。何も言葉が出ず、ただ片手で額と目を覆う。
アルバートのすべて悟ったような顔と、哀しげでも諦めたような表情が脳裏に浮かぶ。恐らくいまはどちらかだろう。どちらにせよ俺が悪いなんてことは考えちゃいないだろう。
この手では彼に触れられない。同じく彼の手では俺に触れられない。そんな関係で、中身だけ変えたって仕方がないのだ。横たわる障害は歪みを生み、初めは上手くいっているようでも、少しずつ歪みは大きくなって取り返しがつかなくなる。彼はその前に諦めさせようとしてくれたのだ。などというのは俺の都合の良い妄想で、最初から俺のことなんて好きでもなんでもない、もしくは恋愛対象として見られないという理由かもしれないけれど。
「……あんたは悪くない」
それしか言えなかった。叶わないとわかっていても諦めきれないものがあった。それでも、本人に直々に振られては諦めるしかないじゃないか。俺は世界の何もかもを拒絶するように目を閉じた。