信じていたのに、と人は言う。そのとき同時に、自分が見ていたものはただの思い込みだったのだと失望する。それが裏切りというものだが、一般的には一時的な誤解であったり、本当にただの思い込みである場合が多い。ひとを簡単に裏切れるものなんて、実際はそんなに存在しないのだと思う。それは価値観が違ったり、タイミングが悪かったりするだけ。誰もなにも悪くなくて、なにか些細なことがきっかけで修復する場合もあるが、そのままずるずると引きずってしまうこともある。
故郷の村でもそんなことがあった。閉鎖的な土地なので仲違いした人間ともすぐ会うし、場合によっては話をしなきゃいけないときもある。そうやって話をしているうちに、仲違いしていた理由がとても小さなすれ違いから生まれでたもので、責任はどちらにもないのだとわかった。あとは互いに謝る勇気さえあればいい。その経験があったから、油断していたというのもある。
「……まさか、あんなことになるなんて思いもしなかったけれど」
ふ、と息をついて額に浮いた汗を拭った。以前は作業をしているときはとにかく夢中で、あまり別のことを考えたりしなかったが、最近は余裕が出てきたらしい。つらつらと色々なことを考えるようになった。これがビルダーとして成長するってことなのかもしれない。
「なんのことだよ」
思わず洩らした言葉の意味に気づいているのかいないのか、シドーは少し不機嫌そうに言った。それでも反応してくれるのが彼のいいところだ。一緒にいるとはいえ、作業中の独り言なんて無視してもいいのに。
「ひとつ歯車が狂っただけで、世界はいくらでも動き方を変えちゃうってこと」
「……はあ?」
「でも逆に言えば、少しネジを締めたり糸を弛ませるだけで世界を変えられるんだ」
信用すること、信頼すること。それはろくでもない心の動きだ。人間が当たり前に待つ感情だが、その匙加減は人によって違う。だからすれ違いが起きるし、事実を受け止めたときの心の状態によって、その針はあっさり180度向きを変えてしまう。そのとき人は、裏切られたと感じる。たとえ裏切られてなどいなくても。
だからこそ、そのすれ違いが起きないように、
「こうやって、一緒にいることが大事なんだ、って」
呟きつつ、手の中で作っていたものを完成させた。火を使って明かりを灯す小さなランプだ。大きさや複雑さの点ではたいしたものではないが、これがあることで夜の暗い時間も作業ができる。
「よくわからんが、……オレだってもう、あんな気持ちはごめんだぜ」
出来たものを興味深げに眺めながらも、シドーは寂しそうにそう呟いた。