寄り添う

彼の持つ温もりは、何もいつもと変わらない。それでも、その表情は通常のものとは少し違っていた。ふとしたときに見せる寂しげな瞳。恐らく無意識なのだろう溜め息に、緩慢な仕草。失ったものはいつだって大きい。怪盗団の皆は誰しも心に大きな空洞を抱えていて、それを埋めるために、あるいは抱えて生きていくために命がけで改心なんてことをやっている。あの世界でペルソナが使えること以外は、街を歩く他の誰とも変わらないのに。彼らは、とりわけその怪盗団のリーダーという男は、時折過ぎるほどに人間らしい。人並みに疑い、絆され、裏切られれば傷つくし、信頼を得られれば嬉しそうに笑う。その隣はいつも温かくて、その居心地の良さに甘んじてしまうのだ。
ふわ、と頭の黒い毛並みに白い手が触れた。少年は何も言わず、太腿にくっついて丸まっているそれをゆっくり優しく撫でる。その手には体温があり、撫でられるモルガナは金色の瞳を細めて、顔を寄せるふりをしつつ相手の表情を盗み見た。彼は寂しげに、口元を緩めて微笑んでいた。何かを追憶するように、どこか遠くを見る、焦点の合わない瞳で。もし自分が彼の飼い猫ならば、ここで想いのひとつも聞けたのだろうか。いつか惣次郎の見ていたテレビドラマでにういうシーンがあったが、あれは相手が言葉を理解していないと思っているから、なんでも言えるということなんだろう。
そうでない自分には、こうして何も言わず寄り添うことしかできない。しかしそれが最大の助けになるのだ、とモルガナ自身は理解していた。いま少年が何を思っていて、何を失ったか、その心にどれだけ大きい穴が空いているのかはわからない。それでも、人の身体を持たぬものは、人の身体に寄り添い続けた。