2019~

宴のさなかに

クリスタリウムではきっと夜通し宴が続くだろう。その中心にいる英雄のことを想いながら、サンクレッドはふっと笑った。初めて会った頃は自分の力もわかっていない風だったのに、ずいぶん成長したものだ。などと少し偉そうに考えてしまう。自分自身もまた、彼に返しきれないほどの借りを作ってしまっているのに。

まどろみの一日

ウリエンジェが起きてこない。彼はいつも自分たちより遅めの起床ではあるが、朝餉の用意ができるくらいには必ず起きてきていた。いままで共同生活というほどのこともしてこなかったので、元々こうなのかはわからない。しかし毎夜遅くまで文献を読みあさり、この世界のことを調べたりしているようだから無理もなく、きちんと起きてくるだけ相変わらず真面目なやつだと思っていた。

或る一夜の話

それなりに色々な経験をしてきてはいるが、まさか男として生きていてこのような瞬間があるとは予想していなかった。こちらから見下ろす端正な顔はどこか恍惚として、俺としてもさすがに好いている相手のそういう表情は、こう、胸にくるものがある。

凪のような眠りを

その日はなぜか、なんとなくあの砂の家に帰りたくなって。だいぶ石の家にも慣れていたところだったが、あの冒険者や皆の顔を見ていたら、なんだか懐かしくなった。それはもうある種の帰巣本能のようなものだ。帝国の襲撃があったときのことはあまり思い出したくないが、それも含めて色々な思い出がある。

レストイン・ピース

暗闇のなかで、誰かが自分を嗤う。それに伴う後悔の念、伸びてくる包帯の巻かれた腕。傷口が開いたのか血が滲んでいて痛々しい。が、男はいやに元気そうに笑いながら、俺の首を掴んで地面に押し倒した。ひやりと背中に当たる冷たいそれはまるで刃のようで、死が間近に迫っているような、そんな心地がする。

バッドステータス

盗賊はそのとき久々に、状況の理不尽さに嘆息した。大概のことは持ち前の能力でなんとかしてきたが、人間、もしくは生き物としての本能の前では如何ともしがたい。それにしてもこの動悸と下腹部の熱はどうして起こされたものなのだろうか。

伸ばす先に

「んじゃあ、偉大な盗賊様に乾杯!」 「……声がでかい」 「いいじゃねえか。周りも騒いでるんだしよ」 「誰が聞いてるかわからん。前に話しただろう」 テリオンはそう言って、アーフェンに強引にぶつけられたグラスを傾ける。

孤独であったからこそ

それは裏切り者の名、と呼ばれたこともある。無理もないことだ。仲間でも始末するのが俺の任務ならば、俺に仲間など要ることもないし、出来るわけもない。そう思っていたのが少し前。いや、いまでも思っていることは思っているが。

不定の体温

あたたかい。人はそれを肌で感じるだけでなく、心で感じることもあるのだと書物にあった。捜査資料以外のものを読むようになったのはもちろん最近であり、そもそも以前は証拠品でない紙の本に触れたことすらなかった。きっかけはマーカスに勧められたことで、彼はかつて所有者であった男の家で度々それを読んでいたらしい。別の話だが、同じアンドロイドでも役割が違えば生活もまるっきり違うということを、知識ではなく心で理解したのもそのときだった。