一日一文企画

寂しがる

……だから、それは誰のせいでもないと」 「……わかってるよ。けど悔しくてさ……」 皆が寝静まった夜。正確にはウリエンジェは自室の灯りが点いていたのでまだ起きているみたいだが、静かなことには変わりなかった。

触れる

思えば、自分から積極的に人に触れたことなどなかった。そもそも触れたいと思ったこともないし、そんな人物に出会ったこともない。のだった、これまでは。

自惚れる

……自惚れても、良いのでしょうか」 背中を向けたまま口を開く。特有の脱力感に火照っていた脳が冷めてきて、その温度差にだんだんと眠くなってきた。溶けてしまった理性が戻ってくるかと思いきや、その睡魔に邪魔されてなかなか戻ってこない。

待つ

それはとても寒い日で、だのに約束の時間になっても彼は来なかった。待たされるのは苦手ではないのだけれども、こうも寒いと相手に非がなかったとしても辛いものは辛い。雪が降っていないのはまだ救いだったが。

別れる

じゃあまたな。そう言って子どもっぽい笑みを浮かべたアルバートの手を、俺は無意識に掴んでいた。あまりに夢をみすぎたのかもしれない。彼によく似た男が、自分に力を託して消えてしまう夢を。あれから少しずつその夢の頻度は低くなっていったが、どうしてもその場面が脳裏に焼きついて離れなかった。

慰める

「大丈夫だから」 呟いた。抱きしめた身体はまだ震えていて、彼もまた自分と同じなのだと思わされる。当たり前のことなのだが。誰だって死ぬのは怖いし、大事な人が亡くなるのも嫌だ。自分や彼だけではなくて他の仲間たちもそうだろう。みな命の重さがわかるものたちだ。

囁く

さやかに風がそよぎ、森の木々がつけている葉を揺らす。その音が聞こえるほど周囲は静かで、夜の森は少し恐ろしいが、これはこれでよいものだと思った。魔物に襲われることがなければもっとよいのだが。とは言えども、今夜は大きめに作った焚き火のおかげか近づくものもなく、本当に静かだった。

逃げる

胸の奥がざわざわする。いつか誰かがそんなことを言っていた気がするが、長らくオレにはその感覚が解らなかった。これは不安というやつなのだろうか。一度自分が自分じゃなくなって、アイツに助けられて、ほとんど成り行きで世界を作り直してから、オレは少しずつ変わっていっている。

惚れる

人が人を好きになる瞬間はいつなのだろうか。そもそもそのような瞬間は本当にあるのか、ともに過ごしていて気がつけば執念に近い情念を抱いていた、というのが恋愛感情なのではないのか。だんだんとわからなくなっていた。

悩む

「暗い顔してるけど、どうかしたか?」 あっけらかんと言ってみせる彼は、その原因が自分にあるとは露ほども考えていないだろう。当たり前だ。俺自身も突拍子もないことで、彼に対して悩んでいるのだとわかっている。それでもあんなリアルな夢は、そして漠然とした感覚は、あの出来事が幻ではないのだと語りかけてくる。

見つめる

初めて会ったときから、真っ赤な瞳が印象的だった。あるいはそれと目を合わせたときに、もしかしたら彼は自分とは違う存在かもしれない、なんて考えていた気がする。あれから色々なことがありすぎて、実際にどう思っていたのかまではうまく思い出せないのだけれど。

想う

この地はどこも寂しげで残酷で、だけどどこかにあたたかさが置き去りにされているような、そんな気がした。それを見つけてやらなければ。いくつでも、あるだけかき集めて彼に届けてやらねばならない。ボクは知らず拳を握り、足元にぴょんぴょんと跳ねてきたメタッツが不思議そうに見上げてきた。