それは思わぬ収穫だった。元々色良い返事を貰えるとはつゆとも考えていなかったのだ。だから思わず呆けてしまって、不機嫌な声が投げられた。
「……どうかしたか?」
「ああ……いや。なんでもない、行こう」
多少強引に手を取ると、おい、と驚いた声が聴こえたが、構わず歩き出す。こういうのは相手の気が変わらないうちに、と経験上知っている。
「食事に行くんだろ? どこだ」
「ちょうどこの近くに良いところがあるんだ。眺めが良くて、料理もうまい」
「だからって、手は繋がなくても……」
はっきりと文句を口に出しながらも、振りほどかれる気配はない。ただ握りかえすこともなく、青年は男に手を引かれていた。
食事に行かないか、という他愛のない誘い。それでも、物腰柔らかそうな外見に反して意外とガードの固い彼には、断られるばかりだった。めげずに誘いつづけたのが功を奏したのか、今日に限っては首を縦に振ってくれた、ということである。
「ハサ、何が食べたい? 奢るぞ」
「店のメニューを見ないと、そもそも選べないよ」
冗談めかして言った台詞にそう答えた彼は、柔らかそうな頬に少し笑みを浮かべたように見えた。握った手は自分よりも体温が低く、生ぬるい温度が伝わってくる。その温度をどこかに閉じ込めておけたら良いのにな、とケネスは頭の片隅で考えた。