撫でる

「良い子だな、ロウは」
冗談めかした口調で、わしわしと髪を撫でくりまわされる。見上げる表情は朗らかに笑っていて、いつもの険しい顔や少し悲しげな顔よりずっと良い。なんて思いながら、
「って、ガキ扱いすんなよ!」
その手を掴んで抗議した。怒ったように言いつつも、隙間に笑みをこぼす。撫でられた感触と、掴んだ手の大きさが、どこか懐かしくて。
少しだけ親父のことを思い出した。たまに帰ってきたときは、拳法を教えてくれとせがむ俺に困ったように顔を顰めていた。思えば俺を自分と同じように育てることになると危惧していたのかもしれないし、単純に迷惑に感じていたのかもわからない。それでもガキなりに説得すれば最後には折れて、頭を撫でてくれた。
「悪かったよ。……冗談は置いておいて、俺が随分お前に助けられてるのは事実だ」
「アンタが? そりゃ、こっちの台詞だろ」
「うん、だからお互い様だな」
焚き火の向こうには、シオンとリンウェルが互いに距離を置いて眠っている。男性陣としては、彼女らと一緒に寝るわけにはいかない。が、彼女ら自身は自身で、色々な事情からあまり仲が良くないのだ。そのことにアルフェンは随分胸を痛めているらしい。まあ、俺としても見ていて気分の良いものではないが。
「彼女らも、俺たちみたいに……なってくれれば、良いんだけどな……
そりゃ無理だろ。喉まで出てきた言葉を飲み込んだ。それが簡単でないことくらい、アルフェン自身もわかっているだろう。
この男は不思議だ。親父に気に入られていたらしいというのもそうだが、特徴的な仮面だとか、記憶喪失だとかそんなものは関係ない。人を惹きつけるというのだろうか。
……どうかしたか?」
柔らかな声が、隣から投げられる。先ほどの頭に触れた手の感触を思い出して、どうしてかそちらを見ることができなかった。ふと椅子がわりにしていた岩から立ち上がって、わざと伸びをする。
「今日は、俺が見張りしとくから。アンタは寝ろよ」
「ん? そうか……
じゃあ、ありがたく寝かせてもらおうかな、と彼は笑った。炎に照らされたその横顔に少し胸が高鳴る。本当に不思議なひとだ。しみじみと考えながら、俺はただそれに頷いた。