「どうしても見せたいものがあって」
そう言って、奴は俺を連れて出かけた。こういう形で奴が俺を外に連れ出すことは珍しくない。だいたい行き先も告げずに出かけて、目的が決まっていることもあれば、決まっていないときもある。この現代社会においてかなり自由な男だ、と俺はつくづく思っていた。やれやれ。
「今日はどこに?」
連休の一日目、奴は昼までしっかり寝たかと思えば、起きて飯を食うなり俺に暇かと聞いた。いつもながら急だなと思いながら頷くと、さっきの台詞だ。
「とりあえず電車に乗って……」
やたらはきはきとした答えに、出てきたのはあまり聞いたことのない駅名だった。この男はいったい普段どういうところまで行っているんだ。色々と一人でもよく出歩いたりしているようだが、そのルートは謎に満ちている。根っからの冒険者というところか。
ただ、この男と一緒に出かけて、損したことはあまりない。趣味が似ているのだろうか、うまい飯屋だとか、妙な手作り雑貨を売っている店だとか。そういう場所を時折尋ねては、俺としても中々楽しんでいた。これが恋人ってやつなのか、ふと考えたりもするが、おそらく相手にそこまでの気持ちはないだろう。
「アルバート、ほら! ここの景色、すごくないか?」
「……ああ。確かに……」
「この時間まで晴れてて良かった。起きたら良い天気だったから、今日しかないと思って」
雨が降ったらどうするつもりだったんだ、とはその表情を見ていたら言えなかった。山……というほどでもない、丘くらいのそこは、ひと気も少なく周りに高い建物があるでもない、それゆえに空を含む街の景色がよく見える。公園の一部らしく、休憩するための机と椅子があった。俺たちは互いに椅子に座り、ゆったりと周囲を眺める。
奴は楽しそうに、どうやってこの場所を見つけたのかを語った。たぶん、俺にこういうのを伝えるのが好きなのだろう。それが俺に対する負い目からなのかはわからないが、俺もそれを受けるのが好きだった。雨が降っていたらどうするつもりだったんだ、とも思うが、そんな風にある種振り回されるのも悪くない。
俺も今度は、こいつを連れ出す側に回ろうか。そう思って、なんだか可笑しくなった。