「……寝るのも飽きたなあ……」
自覚してしまうと、それこそ目が冴えてしまって眠れない。気だるい身体で寝返りをうつと、やたらと仰々しい計測装置の群れが視界に入った。目を閉じる。
早い話が過労だ。倒れた後、ススーロが怒りながら謝っていたのを思い出す。あれほど休めるときに休息をと言ったのに、気づけなくてごめんなさいと。まあ、本当にまずいときというのは、滅多に自身も周りも気づくことはない。ただ、今回一度これを経験したのならば次はさすがに気づくだろう。
だから、こんな処置はやりすぎではないかと思うのだ。自分が頑張りすぎた自覚はある。周囲の人間も気づけなかった負い目というのを感じているだろう、だからと言って、重病患者のように扱わなくても良いじゃないか。
「やあ、ドクター」
どこからか明るい声が投げられ、びっくりして声の主を探そうと周囲を見回す。当然というべきか、その人物は扉の側に佇んでいた。扉が開く音はしなかった気がするが。
「暇そうだね。なんとなく呼ばれた気がして、ここを訪れてみたが……」
彼はずれたサングラスの位置を直すと、口角を上げて怪しげに微笑む。コードネームはウユウと言った。奇人変人揃いのロドスの中では、こうした外見から怪しい人物は逆に普通とも言える。そんな男だ。
「……医療オペレーターの監視の目を、どうやってかいくぐってきたんだ?」
「ああ、そこはそれ、年の功というやつさ。そう怪しまなくてもいいじゃないか。君が退屈してると思って、こうして馳せ参じたのだから」
「それは、そうだが」
ウユウは颯爽とした足取りで寝台の側へ歩み寄ると、ドクターの顔を覗きこんだ。
「しかし、随分とまた大袈裟なものだねえ。大病でも患っているのかい?」
「聞いているだろう。ただの過労だ」
布団に包まり、はあ、と溜め息をつく。可能な限り安静にしなければならないため、いつも被っているマスクは取っていた。開放感はあるものの、これはこれで落ち着かない。
「うんうん。ロドスの中でも随分話題になっているようだよ。それでドクター、眠るのにも飽きた頃だろう?」
「ああ……」
「炎国に伝わる昔話が良いかな? それとも古い子守唄? もちろんこのまま世間話をしていても、私としては構わないが」
「……ふっ」
このオペレーターは、まだ着任して日が浅い。ラヴァとクルースが外勤に出て帰るときに連れてきたのだという。まだ彼に対してわからないことばかりだが、ロドスでは珍しくないことだった。そのマシンガントークじみた喋りと、微かに滲む気遣いに、現在のロドスにおいてはわりと古参であるリーベリの先鋒オペレーターのことを思い出す。退屈に凪いでいた水面に雫が落とされ、何か可笑しくなったドクターは横たわったまま笑みをこぼした。
「なら、昔話が良いな。意外と炎国出身のオペレーターは少なくて、若い人ばかりだから……」
「承知致した」
ウユウは冗談めかして答えると、閉じた扇子を口元に当ててふふんと不敵に笑った。それから彼自身の語りに熱が入り、医務室への侵入者に気づいた医療オペレーターとの攻防が始まるまで、それなりに時間を潰すことはできたのだった。