いままでと違うのは、家に帰れば彼がいるということだ。どこか電車で適当なところに行って、何をするでもなくふらふらと歩くのが好きだった。いま思えばあの世界で冒険者をしていたという感覚がそうさせるのかもしれないが、この行動は冒険なんてたいしたものじゃない。ただの散歩だ。新しい景色を見て、時折気になった店に入ったりして、そういった場所で何かを買うのも好きだった。そのせいで家にはなんだかよくわからないものがいくつかあったりする。あの男は、なんだよこれ、と言って笑っていた。
俗に言う同棲というやつだが、彼が近くに引っ越してきて、それからなんやかんやあって同じ家に暮らすことになった。そんなわけで、いまごろ彼は何をしているのだろう。俺と同じようにどこかに出かけたりしているだろうか。いってらっしゃい、と送ってくれた笑顔を思い出す。どこか懐かしむ顔をしていた。
歩きながら、広そうな公園の入り口を見つけた。なんとなくそこに入って、並木道をすたすたと進んでいく。やっぱり自然はいい。どちらかというとこの俺はコンクリートまみれの都会育ちなのだけれど、夢で見たあの世界に似ているからか、そう思う。
「……鳥でも飼おうかな」
ふと呟いた。俺はこの世界が嫌いなわけではないし、むしろ戦いもなくて平和だから、それはそれで良いと思う。それでもどこか、何かあの世界に憧憬のようなものを感じているのかもしれない。しかしこの世界には彼がいる。アルバートという男が、肉体をもってそこにいる。他の誰がいなくとも、何がなくともそれで十分だ。
俺の言葉に応えるかのように、並んだ木の上からちち、と可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえた。