慕う

「俺は兄を帝国との戦で殺されて、故郷に親を置いてきたんです。今頃は……心配させちまってるかな」
決起集会の騒然とした空気のやや外側で、なんでか俺はそんなことを話し始めていた。隣に座っているのは、とある事情で帝国から亡命してきたのだという男。俺はマキシマさんと呼んでいる。物腰の柔らかい穏やかな人で、正直な話元とはいえ帝国の軍人とは思えない、そんな人物だった。帝国も決して一枚岩ではないということだ。
空になったジョッキを眺めながら、故郷のことを思い出す。同盟軍に入って、アラミゴくんだりまで来て帝国との戦いや復興の手伝いなんかをしているが、なんとなく中途半端だ。兄の仇を討つでもなく、親へは仕送りをしているも、そう多いわけでもない。
「親御さんから、手紙などは?」
「ああ……たぶん迷惑になるからって、気遣って送ってこないんですよ」
……良い、親御さんですね。大事にしてあげてください」
マキシマさんは静かにそう言うと、眼鏡の位置を直した。その瞳は穏やかに、少し遠くを見ているようだった。まるで何かを思い出すように。この人もきっと過去に何かあったのだろう。このご時世でわざわざ軍に入る人間などというのは、何かしら傷を持つものか、最初から狂っているものくらいだろう。ただでさえ霊災の大きな傷もある。あるいは、それを埋めるために戦っているのかもしれない。
「ええ……ありがとうございます。すみませんね、こんな話して」
「構いませんよ。何か飲まれますか?」
先ほど一瞬だけ感じた寂しげな様子はどこへやら、男はふっと笑って尋ねた。
「あんたは? マキシマさん」
「私は……そうですね。こちらの米酒を」
「なら、俺もそれで」
あまりジョッキで飲むものではないが、大きな瓶を取って開けると、中に入ったそれをとぷとぷと容器に注いでしまう。俺とマキシマさんの二つ分だ。
「貴方の故郷の家族に」
彼はそう言うと、ジョッキをやや高く上げた。乾杯ということか。少しその言葉にむず痒さを感じたが、胸の温かさも同時に感じられた。