最後に声をあげて泣いたのは、いつのことだっただろうか。もうだいぶ幼い頃からその記憶がない。あの街で普通に育った子どもが言葉にならない声で泣いているのを見て、疑問に感じたくらいだ。それほどに何を求めるのだろう。何に悲しみ、怒りを感じるのだろうと。
「……ああ、違うんだ。俺は泣いてなんか……」
顔を片手で覆うと、その指が冷たく濡れるのを感じる。もちろん汗ではなかった。目尻から溢れた雫が指の皮膚に伝わりまた流れていく。
こうなるともう言い訳はできない。俺の後ろで、静かに分厚い本を読んでいる男に。
彼は何も言わなかった。心の奥に秘めた優しさゆえなのか、単に何を言ったら良いか考えているだけか。どちらにしても、その方が俺にとっては良い。いまくらいはその静寂に甘えていたい。
あの子はしっかり、ひとりでも生きていると。俺やこの男が教えたことを守り、ときには自分で試行錯誤しながらも、友人に意見を訊いたりし——大変そうだが、問題もなさそうだと。あの英雄にそれを聞いて、それは良かったと笑って頷いた。それから部屋に戻って、また独りになったときに、その感情は襲ってきた。そこにウリエンジェのやつが来たと、そういうことだ。
ひとは悲しくないとき、嬉しいときでも涙するのだと知ったのも、だいぶ身体が大きくなってからだった。その実感はなかなか湧かなかったが、いまはよくわかる。
子どものように声をあげたりはしなかったが、俺はときおり嗚咽を混ぜながら、泣いた。彼女の旅路にどうか、これ以上大きな痛みがないように願いながら。