すやすやと寝息を立てる姿を見て、羨ましく思えるし、憎らしくも思う。羨望と憎悪はかなり近いものかもしれない。冷静な頭でそんなことを考えて、他人事みたいに自分の感情を分析していた。癖のある黒い髪の隙間から覗く、薄く長い睫毛を見ていると、なにか勘違いしてしまいそうになる。この男は自分に心を許しているのではないかと。隣で眠ることになんの違和感もなく、警戒も抱いていないのだと。
ふと、片手でそのふわふわとした髪を撫でる。この手をもう少し下におろしてもう片方の手を添えれば、簡単に首を絞めてしまえるが、気づいた時点で彼自身に止められるだろう。頭では理解していても、好奇心が働いてやってみたくなる。彼は信じている人間に傷つけられたとき、どんな顔をするのだろうか。絶望か失望か、はたまた——憐憫か。こんなや屋根裏部屋に住んでいるような男に憐れまれるなんて、願い下げどころではないのだけど。
髪を撫でつつ、指先で耳のあたりを潜るように触れると彼は小さく身動ぎした。眠り、という行為は一般的に疲労回復のためのものという。身体の機能を一時的に低下させ、回復させる。回復速度は体質によっても変化し、人によってはほとんど睡眠を必要としないものもいる。明智はどちらかというとあまり眠らなくても平気なタイプで、さすがに何日も寝ないというのは難しいが——連日深夜まで活動していてもすぐに身体にガタがくるわけではない。
つまるところ、眠っている間は基本的に無防備だ。他人の隣で眠るなんていうのは、明智にとってはまったく理解できない所業だった。それでもここから離れられないのは、横で眠るその顔に対して抱いた感情を分析しきれていないからだ。
羨ましい。憎らしい。信頼されている。最後の感覚は、明智にとってどうやっても受け入れがたい。誰も信じていない自分が、誰かに信頼されるわけがないのだった。
狡いなあ、君は。そんな言葉が口からこぼれて、思わず口を覆うように唇に触れる。明智は小さく舌打ちして腰をあげると、静かに屋根裏部屋の明かりを消した。