任務から帰ってきたその姿を見たとき、心臓を鷲掴みにされたような。胸に痛みを感じた。いつも閉じているシャツのボタンは傷に負担をかけないよういくつか外され、巻かれた包帯が覗いている。よく見るとこめかみの辺りにも、皮膚を傷つけたのか四角い絆創膏が貼られていた。
「やあ、スチュワード」
へら、といつものように人懐こく笑う。僕はそれを怒っていいのか労うべきなのか迷って、言葉を喉に詰まらせた。こんな感覚は久しぶりだ。ここに来るまでは、しばらく自分の言うべきことに困るなんてことはなかった。彼はそんな僕の様子を、金色に輝く大きな瞳で観察する。なにを考えているのだろう。いつも以上に読めない表情が、より僕に口を開くことを躊躇わせた。
胸のうちをぐるぐると色々な感情が巡り、吐き出せなくなって、僕はその細い身体をこれ以上傷つけないよう抱きしめていた。彼の心が人並みに傷つくのかはわからないが、ハグをすることは精神的ストレスを緩和する効果があるとも言われている。馬鹿。どうして。そんなどうしようもない言葉は飲み込んだ。
「……大丈夫ですか?」
耳の後ろから響く心配げな声がちくりと刺さる。それを言いたいのは僕の方だよ。そう返してやりたいのにできないのは、その言葉がこれ以上ないほど的確だからだ。アドナキエルの言うことはいつも正しい。口数が少ない分、無駄なことは言わない。いまだって、自分は大丈夫だとわかっているから僕のことを心配してくれるのだろう。
わかってる、わかってるんだ。戦場に出る以上、傷つくことは当たり前だ。僕たちは感染者として、ロドスから治療を受ける対価にこの力を捧げている。それは各々自分で決めたことで、後悔なんてありようもない。それでも大事な人が知らないところで傷つくのが、こんなに怖いことだったなんて。
「……おかえり。アドナキエル」
「……はい」
僕はA4の皆を支える立場でいたいが、そのときだけは逆だった。すり、と細い指に背中を摩られると、どうしようもなく情けなくなる。ただしばらくそうして、子どものように縋り付いていた。