焼き付ける

命を燃やすという表現は、しばしば戦いの場面において使われる。もちろん机仕事にだって使うことはできるが、より情景が伝わるのは武力のぶつかり合いというものだ。だからって文字通り自分の血を熱に変えるような戦い方をする人間は、この世界にもそうそういないだろう。
「あいたっ」
「あ……ごめんなさい」
つい包帯を巻く手に力を込めてしまい、患部を指で強く押してしまったのだろう、小さく悲鳴があがる。グレースロートははっと我にかえると、反射的に謝罪した。
「あれ。わざとじゃなかった?」
……違うよ。少し……呆けてしまって」
「珍しいね。いっつも冷静な君が」
へへ、と悪戯っぽく笑うブレイズの頬には大きな絆創膏が貼られている。先ほどグレースロート自身が貼ったものだ。彼女の脳裏には、あまりにも凄まじい戦場の光景が焼きついて離れなかった。
グレースロートは狙撃オペレーターで、とりわけ長距離での射撃を得意とする。自分は激闘の場にいないものの、遠くからそれを観察して、機を窺うというのが仕事だ。スコープに映るその姿はあまりに勇猛で、残虐にも、自虐的にも見えた。そうして得た傷に、拠点へ戻ってきたいま、手当てを施している。医療オペレーターは巻き込まれた民間人の手当てを優先しなければならなかったし、ブレイズの傷は多くはあるものの深くはなかったので、気がつけば自分から申し出ていたということだ。
「あんた、毎回あんな風に戦うの?」
「んー、今回はちょっと無理しないと拙そうだったからね。民間人の被害も出てたし。さすがに、毎回はここまでやらないかな……
……そう」
まるでそれが当たり前のように、しかし毎度のことではないという答えに、グレースロートは知らず胸を撫でおろした。腕の傷に包帯を巻き終え、今度は手の甲の擦り傷を消毒しようと、薬箱から取り出した消毒液で脱脂綿を濡らす。
グレースロートは少しずつ、感染者に歩み寄ろうとしていたが、その歩み寄りの途上でもわかったことがある。ブレイズはロドスに多くいる感染者の中でもかなり変わり者で、アーツの使い方も一層変わっている、ということだ。改めて目の前にしてそれを強く感じた。彼女は感染者として、命を燃やすという言葉そのものとして生きている。
「沁みるから、我慢して」
「あのね、それくらい……うう、ほんとに沁みる! いたた」
無邪気に痛がるブレイズの表情に、戦場で見せた獰猛な笑みの影はない。グレースロートは軽く頭を振ったが、その記憶はまだ離れてくれなかった。