望む

突き詰めれば、多くの人を助けたいというのも欲望である。人の心について考えていると、これまでに出会った多くの人を思い出してやりきれない気持ちになってしまう。手を伸ばせなかった人。諦めてしまったもの。ただ見ているしかできなかった自分。
「また、難しいこと考えてるな」
「ん……すまない」
「謝るのもおかしいけど……
映画を観ていた。彼の部屋にある、ブラウン管の小さなテレビとDVDプレーヤー。自分の暮らす寮の部屋にはテレビもないので新鮮だ。特にほしいと思ったこともないのだが。
渋谷のレンタルショップで借りてきたというそれは、海外のコミックを題材とした特撮映画だった。やはり特撮はすごい。美術的にも大きな価値がある。初めはそういったところばかり観ていたが、途中からそのストーリーにも惹かれていった。そしてどこか自分たちの境遇に繋がるような、そんな気がして、つい呆けていた。
「祐介、大丈夫か?」
覗き込んできた大きな瞳に少し驚いて、息を呑む。いつもの眼鏡は外していて、幼げな雰囲気になっていた。
……俺たちの、人を助けたいという欲望は……本当に歪んでいないのだろうか」
その雰囲気にのまれ、いつの間にか考えていたことを口走ってしまう。彼はあまりこういった話題には乗り気でなく、俺はしばしば尋ねてしまうのだが、諭されたりすることはない。しかし結局のところそれが心地よいのだ。人の心は曖昧で、熱しやすく冷めやすい。
「そうだとしたら、きっと誰かが改心させてくれる」
珍しく彼はふっと笑った。そして再び視線を画面に戻して、その映像の出来に感嘆の息を洩らす。そうか、それならばよいかもしれない。もしかしたら、そうであってほしいという望みなのかもわからないけれど。
ふいに肩ごと抱き寄せられ、驚いたがその胸元に頬を寄せる。祐介は甘えん坊だな、と軽口が聞こえたような気がした。