明主

巡り合う

強い風が癖のある髪を揺らした。思わず目を瞑り、それが過ぎてからゆっくりと瞼をあげる。翳した手に花弁がついていて、軽く振って落とした。そうしてまた前を見て、呼吸の止まるような思いをした。

眠る

すやすやと寝息を立てる姿を見て、羨ましく思えるし、憎らしくも思う。羨望と憎悪はかなり近いものかもしれない。冷静な頭でそんなことを考えて、他人事みたいに自分の感情を分析していた。癖のある黒い髪の隙間から覗く、薄く長い睫毛を見ていると、なにか勘違いしてしまいそうになる。この男は自分に心を許しているのではないかと。隣で眠ることになんの違和感もなく、警戒も抱いていないのだと。

弄ぶ

戯れに、部屋を見せてほしいなどと言って。受け入れられたのは意外だった。もっと警戒心を露わにしてくるものだと思っていたから、上手くいっているのかもしれないと思ってしまう。人の心に入り込むのは簡単だと思っていたが、彼に対しては少し違った。

触れる

思えば、自分から積極的に人に触れたことなどなかった。そもそも触れたいと思ったこともないし、そんな人物に出会ったこともない。のだった、これまでは。