弄ぶ

戯れに、部屋を見せてほしいなどと言って。受け入れられたのは意外だった。もっと警戒心を露わにしてくるものだと思っていたから、上手くいっているのかもしれないと思ってしまう。人の心に入り込むのは簡単だと思っていたが、彼に対しては少し違った。心の中にはるか多くの人格を住まわせているからなのか、単純で欲望に正直な大人たちと違って思考が読めない。だからこそある程度オープンな私室とはいえそこに入り込みなんとなくふたりで彼の寝床に腰かけているというこの状況も、なにか裏があるのじゃないかとも疑ってしまう。
「君が植物を愛でるなんて」
「そんなに意外か?」
「まあ、植物は心を癒すというから。合理的に考えれば、あまり意外でもないね」
「別に、置いてあったから世話をしてるだけだけど」
……放っておけないってやつかい?」
「そうなのかな。そんな大層なことも思ってない」
人差し指で頰を掻きながら、彼は不思議そうな顔で言った。大層。大層か。確かに、枯れていくものを放っておけないと考えるのは、実は大層なことなのかもしれない。何やら色々なものが飾られている棚の横に聳える元気そうな観葉植物は、どうもその光景のシュールさを強くしていた。きっと彼はその無表情になんだって背負ってしまうのだろう。なんでもない顔で。
「そこの棚は、どうしてこんな品揃えに?」
「色々、皆から貰ったものとか。自分で買ったのもあるけど……改めて見ると収集癖のある人みたいだな」
「貰ったもの、ね」
確かに個々のアイテムを見てみると、彼の仲間である人物の好みや趣味なんかを感じられるものがいくつかあった。
「僕もなにか贈ったら、ここに置いてもらえるのかな」
軽口のつもりで、ぽつりとそんな言葉をこぼす。彼の反応が見たかった。自分たちはただ、時折通っている店とその店の居候という関係でしかない。言葉のない彼の様子を伺うと、なにを言うか考えているように顔を伏せていた。量の多い前髪が目元に影を落としている。
……物によるな」
「はは、なんだいそれ」
「一応考えて置いてるんだ」
そんなわけないだろ、と棚のラインナップを見て思うけれども、微笑みだけに留めておく。なかなかおもしろい反応だった。少し気分が高揚してしまうが表には出さない。せっかくだからもうしばしこの状況を楽しみたい、などと考えてしまった。彼を相手にすると、どうも通常の自分とは違う気分になる。その正体がわからないまま、俺は曖昧に笑っていた。