鉱石は、この世界で旅するにあたり非常に重要な採取物だ。各所に自生している植物は食料にはなるが、武具にはならない。とりわけ武具の中でも不思議な力を持つ、装飾品の主な材料となるのが鉱石だった。
「うん……初めて見る石だ」
鉱脈の中でひときわ輝きを放っていたその石片を手に取ると、アルフェンはそれを晴れた空に翳してみた。深い蒼をたたえたその塊はきらきらと光を反射し、透き通っているようにさえ見える。
「ふむ。珍しいな、これは」
「ん、わかるのか? テュオハリム」
聴き慣れた声の聞こえた方に顔を向けると、鮮烈な赤が目に入った。いつの間にやらアルフェンの隣に長身の男がしゃがみ込んでおり、掘り出したばかりの鉱石を眺めている。波打つような髪が風に揺れて、ふわりと芳香がしたような気がした。アルフェンは少し驚いて、喉を詰まらせる。テュオハリムはそんな相手の様子を気にする風もなく、淡々と語った。
「蒼玉——サファイアだ。しかし良い色をしている。私も鉱石にはあまり明るくないが、人の管理がない場所でこれほどのものが採れるとは」
「そういうものか。……確かに、綺麗だよな」
「ああ。少し君にも似ているな。アルフェン」
「へっ」
あまりに当然のことのように言われ、声が裏返りかける。似ている、似ていると言ったか? 俺がこの綺麗な石に? いつものように曖昧に笑って返すこともできたが、妙に距離が近いこともあり、なんとなくその存在を意識してしまう。
「身に纏う青、人々を導く光たる存在。また、こういった石は熱を受けて色を変えることもあるそうだ。炎の剣を手にして、君もまた変化していった……そして何よりも目の前のこの輝き、似ていないかね?」
「……お、俺にはわからないな……」
アルフェンにはそう答えるのが精一杯だった。揶揄われているのかとも思ったが、相手は至って真剣にものを言っているようだ。テュオハリムはふっと口元に笑みを浮かべると、洗練された動きで衣服の土埃を払いながら立ち上がった。
「あちらでリンウェルが呼んでいる。行くぞ、アルフェン」
「あ……ああ」
いつの間にか早まっていた鼓動を抑えようと努力しつつ、アルフェンは鉱石を懐に仕舞うと、同じように立ち上がる。この石はどう加工してもらったものか、頭の片隅で考えを巡らせながら。