「ときどき、疑っちまう。お前のその感情が、言葉が、俺に対する憐れみなんじゃないかって」
風呂上がりの湿った髪をタオルで拭きながら、ソファに座っている俺の隣に腰掛ける男はそう呟いた。その横顔は自嘲的で、あの頃の——あの世界で俺といたときのような顔をしていた。それを見て、ああ俺はこの表情に恋をしたのだ、と思う。
「違う……とは、言い切れないな」
嘘はつけない。始まりは確かに安い同情だったかもしれない。自分と同じような出自で、経験をして、成長して、けれど決定的に未来の行く先を違えてしまった。そんな彼に対して憐れみの感情を抱いていなかったと、断言することはできない。
「別に、意地悪を言うわけじゃないんだ」
アルバートは笑ってそう言うと、俺の頭をくしゃりと撫でてそのまま肩を抱き寄せる。子どもにするみたいに優しくその肩を叩いて、夢見るような口調で続ける。
「ただ……確かめたいだけさ」
「……何を?」
「それ、言わせるか?」
声の飛んでくる方に目を向けると、当たり前ながらすぐ近くに相手の顔があった。たぶんこれ以上に言葉は必要ない、と思う。単純に俺自身が、こういうことを言葉にするのが苦手なだけかもしれないけれど。
その唇に自分のそれを寄せて、そのまま重ねる。いつもみたいに驚いた風もなく、彼はその行為を受け入れた。頰に手を触れて、薄く開いた歯列の隙間から舌を差し入れ、絡める。キスくらいはもう慣れたものだ。
本当は指を絡めて手を繋ぐだけでも、心は満たされる。しかしながら、いつからかそれ以上を求めてしまうようになった。ひとは欲張りだ。確かめるだけなら、些細なことでもいいのに。