「……そんなわけないだろ。君が、僕のことを好きだなんて」
にべもなく振られたのだと気づくまでに少しかかった。彼はいつもの涼しげな笑みでそんな言葉を放つと、何もなかったようにカップに口をつける。もしかしたら彼には男も女も関係なくて、告白されるのに慣れているからこんなに冷静でいられるのかもしれない。俺自身も正直なところ、あまり期待はしていなかった。好きだ、ということだけ伝えられれば良かった……と言い切るのは、さすがに難しいかもしれないけれど。
きっとこの男は、本当に誰のことも信じていないのだ。振られたことよりもそのことのほうが胸をざくりと刺して痛い。俺はその痛みに苛まれながら、次に口に出す言葉を考えていた。
「君って、見た目に似合わずロマンチストだよね」
明智は俺のことを見もせず、どこか嘲るような、しかしその感情を隠そうとする声色で響く。ああ、その通りだ。そもそも心を盗む怪盗なんてやっている人間がリアリストなことがあるだろうか。反応して返そうとすると、その前に視線で止められた。
「君は面白い人だから、一応忠告しておくけど。人を好きになるなんて、ろくなもんじゃないよ」
その言葉はすべてを拒絶するもので。経験があるのだろうか、そんな口ぶりだが、手酷くやられたのかもしれない。いつか誰か、この男の隣に立つ者が現れるのだろうか。それが自分だなんてことは思いもせず、結局何も投げ返すことができないまま、俺はルブランの閉店作業をしていた。