最近どうも祐介が冷たい。冷たいといえば彼は普段からクールらしい雰囲気をまとってはいるが、決してそういう話ではなかった。杏や双葉はもちろん竜司にも普段通り接しているのに、自分にだけ若干棘のある態度で相対してくるのだ。周囲に気づかれるほどあからさまではないのが彼の強いところだった。
何かしたのかもしれないが、思い当たる節がない。何に対して怒っているのか、わからないまま時間が過ぎた。
「俺、なにかしたか?」
「……オマエは、男のくせに男心がわかってねえなあ」
モルガナはやれやれというように黒い身体を伏せて、蒼い眼を閉じる。そのままごろりと横に転がり、うにゃうにゃと言葉にならない鳴き声を唱え始めた。眠たいのだろうか。本能的にその顎に手をやり、人差し指の背で撫でる。
「おい……だからそういう……ニャフフ」
黒猫は何やら文句を言おうとしたようだが、すぐに負けて気持ち良さそうな声をあげた。彼が本当に人間で、その姿になったとしたらそれらしく活動できるのだろうかとふと心配になる。猫であることに慣れすぎだ。
「ん? ……ああ、もしかして……」
「やっと気づいたか、このニブチンめ」
「猫に教えられるとは」
「だから猫じゃねえ!」
要は、俺が平然と誰にでも良い顔をするから拗ねているのだ。別にそんなつもりもなかったが。さてどうしたものか、と首をひねる。こんな侘しい屋根裏部屋では浮かんでくる考えもない。
一度だけ見た、少し儚げな横顔だけが脳裏に浮かびあがった。冷たいとは思ったものの、その曇った表情の理由はいままでわかっていなかったのだ。普段は色々な人物の性格や好みを考え、取り入ろうとしているわけだが、いざ機嫌を損ねたときにどうしていいかもわからない。
「……ま、本当に何かやらかしたかもわからんがな」
「それは……そのときだな」
今日は彼のことを夢に見るかもしれない。そんなことを思いながら、黒の毛玉を傍らに揺蕩う眠りへ落ちていった。