奪う

目を奪われた、というのはこういうことを言うのだろう、と生きていて初めて感じた。美しいものはいくつも見てきたけれど、その光はどうしようもないくらいきらきらしていて。眩しさに目を細めてしまった。
「どうかした? ガイア」
「え、ええ……
リーンは可愛い。光の巫女は金の髪に水晶の瞳をしていると伝え聞いていたが、彼女に赤い髪はよく似合っていた。彼女自身に聞いた話では、よく要領を得ない話だったのだけれども、ある何かを境にいまのような外見に変わったらしい。今日はいつもの服装ではなくいかにも私服といったようすの、キャミソールに上着を羽織り、下には七分丈のパンツを穿いていた。自分もいくらかラフな格好にしているが、彼女のその姿はあまりに意外で、有り体に言えば驚いてしまった。
「へ、変かな。ライナさんにも見てもらったから、大丈夫だと思うんだけど」
「ううん……大丈夫よ。普通の女の子に見える」
「良かった。ありがとう」
どうして素直に言えないのか。少し自己嫌悪に陥りそうになるが、その笑顔を見ればなにもかもどうでもよくなる気がした。文字通りなんでも忘れてしまえそうに思える。自分の過去のことも、頭に響く声のことも。いっそ奪ってくれたらいいのに、なんて思いながら、差し出された手を握った。