待つ

それはとても寒い日で、だのに約束の時間になっても彼は来なかった。待たされるのは苦手ではないのだけれども、こうも寒いと相手に非がなかったとしても辛いものは辛い。雪が降っていないのはまだ救いだったが。
冷えた空気に息を吐き出すと、白い靄がふわりと浮かんで消える。そして吸った息の冷たさにまたふるりと身体を震わす。一応防寒対策はしてきているものの、動かずに立っているのは寒い。とにかくとても寒いのだった。道行く人も同じように白い息を吐いて寒そうにしている。動けばいくらか温かいのだが、と思わざるを得ない。
気を紛らわせようとポケットからスマートフォンを取り出し、適当にSNSを眺めたりしていた。手が悴む。文字を追っていると少しそれを忘れられるが、ただの誤魔化しでしかなかった。アイツはいったい何をしているのか。見ている内容は頭に入らず、ただ待ち人のことばかりが脳裏から離れなかった。

……ご、ごめん。結構待ったよね……こんなに寒いのに」
「別にいいさ。オレはそんなに寒がりじゃないからな」
ほら行くぞ、と左手を差し出す。その言葉自体に嘘はなかったが、寒かったのには間違いない。それでも表には出さないようにする。強がっているつもりはないのだけれど、そう見えるかもしれない。
「うわ、手つめた」
……そりゃそうだろ」
手袋をしていたとはいえ、それも完全に寒さを防いでくれるわけではないのだった。差し出されたシドーの手は冷たく、自分が待たせたせいだとビルドはそれを両手で握る。そして自分の口元に近づけると、ほうと息を吹きかけた。
「っ……な、なにしてんだオマエ……!」
「へ? いや、冷たいから温めようと……
「い、いいから離せ!」
そう言うと、握られた手を力任せに引き、そのままの勢いでコートのポケットに突っ込む。ビルドはしばしその反応にぽかんとしていたが、そんなシドーの顔を見て可笑しげに笑った。
「はは、耳まで真っ赤じゃないか。シドー」
「誰のせい……じゃなくて、寒いからだ。勘違いするなよ」
「はいはい」
お詫びのつもりだったんだけどなあ、といつもの腑抜けた顔で笑う少年は、勝手に歩き始めた背中を追う。本当に機嫌を損ねていなければいいのだけれど。