じゃあまたな。そう言って子どもっぽい笑みを浮かべたアルバートの手を、俺は無意識に掴んでいた。あまりに夢をみすぎたのかもしれない。彼によく似た男が、自分に力を託して消えてしまう夢を。あれから少しずつその夢の頻度は低くなっていったが、どうしてもその場面が脳裏に焼きついて離れなかった。時折考えすぎて、自分と彼がここで出会ってともに過ごしているのはとても偶然などではないのじゃないか、なんて思うほどだ。
それがついに、その手を取ってしまうところまで来た。
「ま、ってくれ」
うまく言葉が出てこない。伝えたいことがあるのだけれど、喉につかえてしまっている。彼は心底不思議そうに首を傾げて、心配げに言った。
「大丈夫か? お前——」
「……お前は、いつも他人のことばかりで。自分はいいって、お人好しで……」
出てきたのは、まったく思いもしないようなものばかりだった。自分が自分でないような気がする。それでも自分が思っていたことには変わりない、のだが、本当はそんな小言を言うつもりではなくて。
「アルバート、」
名前を呼ぶと、ふと本来の自分に戻れた。アルバートは面食らった顔で、ぱちくりと目瞬きをする。いつものように別れようとして急に呼び止められたかと思えばこんな風に言われたら、そりゃ驚きもするだろう。しばし互いに視線をかち合わせて、気まずい空気がひと気のない夜の道に流れた。
俺がこの状況をどうしたものか、熱くなった頭で必死に考えていると、彼はふっと口元を緩めて笑った。
「……そんなに心配しなくても、俺はどこにも行かないさ」
どこか淋しげな、それでも溢れだしそうななにかを堪えているような笑みだった。ただその不思議な空気をまとったのは一瞬だけで、
「じゃあな、今度こそ。また明日」
そう言ったアルバートはいつもの快活な雰囲気に戻っていた。いま俺はなにを見たのだろう。自分の行動も十分突飛なものだったことを棚に上げ、俺は疑問に思いつつ毒気を抜かれてああ、と頷いた。いつかこの関係が、なにかに変わるときがあるのだろうか。そう思いながら消えていく背中を眺めていた。