甘える

肩に少しの重さが掛かる。珍しいな、と下りていた瞼を上げると、当の彼は目を閉じていた。短く切られた髪は風呂上がりに乾かしたばかりなのでふわふわしていて、撫でてやりたくなる。が、そんなことをしたら逆に拗ねられてしまうかもしれないと思うと、ケネスは膝の上に置いた拳を柔らかく結んだ。
つくづく猫のような青年だ。放っておくと寄ってくるし、構おうとすると嫌がる。本人にその気はないのだろうが。面倒だとは思わないし、ケネスとしてはそれくらいの距離感が丁度いいとすら思っていた。たまにこうして可愛いところを見せてくれるのであれば、普段が多少つれない態度でも問題ない。
「眠いなら、ベッドに行くか?」
「ん……
その感覚も十分堪能したので、できる限り柔らかい声をかけた。逆にわざとらしかっただろうか、と思うも、青年は本当に睡魔に襲われているらしく生返事をする。先ほどまで熱心に大学の課題である論文を書いていて、何千字書いたかは知らないが、やっと終わったところらしい。人間、一般的には眠いと極端に動けなくなり、何かに寄り掛かろうとする。それが睡眠欲という本能によるものだとしても、他でもないこの青年が自分に凭れようとしているのを感じると、満たされた気持ちになった。本当に珍しいことなのだ。
「ハサ」
「う……すまない、もう……
「わかったよ。お前さんくらいなら運べるから、安心しな」
このままソファで一緒に眠るのも悪くはないが、さすがに成人男性がふたり寝られるほどのスペースもない。ケネスは青年がむにゃむにゃと言葉にならない何かを言っているのを聴きながら、ニュースを流しているテレビの電源をリモコンで切った。
静寂のなかに、小さな呼吸が響いている。体重はもうすっかり預けられており、その肩に腕を回すか迷ったが、何をしないままでいた。