文章

およそ一生の恋というものはない

月の綺麗な夜、なんてかっこつけた形容。でも実際そうだったからそれくらいしか思いつかなかった。…そんな夜、日向はグラウンドで木製バットを持ち素振っていた。その顔は真剣そのもので、声をかけるのを躊躇うほど。

恋愛パラドックス

昨日のあのあとからずうっとそうだ。あいつの表情が、声が、感触が体から離れてくれなくて、焼きついたまま。逃げこんだ屋上で1人、あーとかうーとか唸り声をあげていた。

それくらい好きってことさ

そうそれはいつだったか、野田に「なんでお前、そんな物騒なもん持ってるんだよ」とふと何の気なしに聞いた。「貴様に教えるほど安くはない」、そう険しい顔で吐きすてて物騒なそれを喉もとに突きつけられた。

続く終わり

「お前が……お前が、消したんだろ、あいつを!」 日向と名乗った男はただひたすら、激昂していた。あいつとは音無結弦のことだ。結弦はついさっき、――とは云っても2、3時間ほど前だが、この世界から完全に存在を跡形もなく消した。

とけていく

融けていく。溶けていく。解けていく、自分と云う存在が。消えるときってこんなんだったのか、なんて呑気に考える意識もだんだん薄れていく。記憶のなかの五十嵐も、目の前の奏も。ついでに思いだした、日向のこえと顔も。

つめたい

殺しても死なないと云う事実はあまりにも残酷だった。どんなに苦しくても、辛くても、痛くても、死ねないのだ。意識を手放そうとしても、手放したとしても、痛みにまた目を覚ます。

再会=開始

※転生後ネタ 「いやー、まさかこんなところで音無に会えるとはなっ」 小学生のころ転校してしまった友人に高校で再会したときのような軽い口調で云うと、日向はコップのプラスチック部分をべこりと指でへこませながらアイスコーヒーを啜った。

伝わる上昇体温

※学パロ 「おい日向。日向、起きろ」 「……あ…?」 頭をべしっと叩かれて眠りから覚めた。いってえ。痛みが時間差で襲ってくる。

「ばーか」

そんなんだから、…音無が、そんなんだから」 簡潔に云えば俺は泣いていた。音無に対するちょっとした嫉妬とか大袈裟だけど憎悪とか、恥ずかしいけど愛だとか、いろいろなものを混ぜこんだ涙。

アイラヴ、ユー

まあ、今さら伝えることなんてないよな。もう充分伝わってるだろうし。そうだろ? …そんな顔すんなよ、なに、言葉で聞きたいのかお前は。

そんな、自己嫌悪

「好きだ、音無」 確かめるようにそう云って、ふわり、日向は笑った。目を細めさせて。少し頬を染めて。普通は異性にする告白の言葉。 その笑顔が温かくて、ひどく恥ずかしくて、俺は目を逸らす。

どうしていつからこんなに

死んだ世界にも、律儀に1日は巡ってくる。朝の光に目を醒ましたらすぐ横に音無の顔があって、一瞬驚いた。そいつはさも気持ちよさそうに眠っていて、俺が身体を起こしても起きそうにはない。