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それでもきみは僕の前を歩いていくから

※発売前 「俺はさ、居場所を作るわけにはいかないんだ。お前もちゃんとした夢があるんならわかるだろ、そういう仕事なんだよ。ずっとふらふら彷徨って誰かに雇われて金をもらって、いつかはどこかで一人で死ぬ。それが俺の夢さ」 「そんな、……そんなの」 「それにお前が口を出す権利はない。それもわかるだろ、青少年」

埋め合わせ

まだ暦の上では夏なのに、妙に寒い日だ。テントの中でも隙間風がやたらと突き刺さってくるので、昼寝をしていたのに妙に起きてしまって、横で武器の手入れをしているおっさんの上着の裾を引っ張る。

好きだよと触れる

「な――ちょッ、痛」 「よかった。本当に」 肩の骨がみしみしと悲鳴をあげそうなほど強く、ただ強く抱きしめられる。フレンのこんな姿を見るのは当然ではあるが初めてで、驚いた。

知らなくてもいいこと

※学パロ 「あんたはどう思う?」 何かを知っている目で、青年は長い髪を揺らしながら尋ねる。いいや、案外何も知らなくてただの戯れかもしれない。む、とレイヴンは口をへの字に曲げて眉をひそめた。

やがて何にも成れないもの

目尻の雫を人差し指で掬う、そうだ、これだ。感情的と生理的の違いなどもはやどうでもよかった。彼の涙。そう思うだけで自分の中に何かが、込みあげる。如何に彼の表情が微動だにしないままであっても。

変わらぬさだめ

彼は俺の腕を掴んだかと思えば、驚いて思わず開いた手の平を彼自身の喉に押しつけた。 「拓也」 「…どうしたんだ、檜山」 「殺してくれ。もう」

言ってはならない

どうしてだろう、いつからか自分の彼への想いに自信が持てなくなった。好きです、とどんなに繰り返しても、何かどこかが食い違っているように思えて仕方がないのだ。好きなのは確かなのに。

理由を聞けたら

檜山のその笑顔は、ときどき拓也に違和感を感じさせた。ときどき、本当に空虚なのだ。瞳の中はただ何もない伽藍洞になっていて、そう、云ってしまうなら人間のものではないような。