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愛のかたちは

ちゃんと両腕で抱きしめてみると、彼の身体の小ささがわかる。お前って意外と小さいんだな、とついそのまま零してしまったときは当然拗ねられたが、まだ若くはある俺からしても彼くらいの子はそれでいいと思う。何より可愛いし。

広がる青と

全身に風を感じながらバナージは、速さに負けそうになる腕でしっかりリディの胴を抱く。何度か彼のバイクの後ろには乗せてもらったことがあるが、こうもスピードを出して走ったことは一度もなく、新鮮ではあっても少し複雑に思うところがあった。今日はどこに行くんです、と聞けば、海だという。

ひとりでは寂しい生き物だから

少し長めの話 /目を覚ます。……俺は、何をしていたのだったか。薄く瞼を開くと、霞んだ視界の中に、無数の光が視えた。なんの光だろう。思わず手を伸ばして、ここがモビルスーツのコクピット内であることにやっと気づいた。

平行線を辿る僕ら

怨みがないわけではない。しかしそんなものはとっくのとうに擦れ削れて消えてなくなってしまったのであるし、そのことについて今さら何か言うというのもおかしい話だった。

人工的な温もりに

「お前ってさ、顔だけはいいんだよなあ」 マフラーに唇を埋めながら言うものだから、聞きのがすところだった。彼はもとよりそれが狙いだったらしく、私が返事を寄越せばとても不満げな顔をした。まったく素直じゃないやつだ。

不安定なやくそく

「……ん」 唇の間からどちらのともとれない吐息が洩れる。ただ、唾を呑みこんだのはクワトロのほうだった。アムロという男がこうも積極的なのを見たのは、彼にとって初めてのことだったからだ。

その理由

明瞭にすぎる瞳を見たくなくて、体ごと目を逸らした。酒が入ったって変わりはなく、やはり何も通さない彼の瞳は危険だ。仮面だってサングラスだって、何かを通したとして結局は変わりないのだが。

きっと、ずっと前から

時々にしか触れ合えなかったころ、感じていたあの独占欲をふいに思い出した。彼の笑顔も、涙も、いまだに若い生真面目さをもった瞳も、いまは自分の隣にある。いやむしろ、だからこそだろうか。

凭れる

今日は疲れた、と零して背中にのしかかってくる男の体重はとても軽く感じた。以前何度かは地球に住んでいた時期があったが、こういう風に他人と触れ合うのは、ひどく懐かしいことのような気がする。

その白はまるで

「……雪だ」 静かな部屋に呟いた一言はいやに大きく響いたように思えた。そのせいか腰のあたりで彼がもぞりと動いて、少し擽ったく感じる。起こしてしまったか。

おとなとこども

Z軸でシャアムっぽい /「僕はあの人ほど、貴方を知りませんけど」 頬杖をついて云うと、何故か寂しい気になった。本当は関係ない話だから当たり前のことなのに。 「……きっと。そんなの、小さなことだと思いますよ」

すこしだけ見逃して

※学パロで体育教師×保険医 「記念すべき十回目だ」 これでもかと消毒液を染みこませた綿をピンセットで摘み、それを患者の膝の傷にぐいと押しつけながら言峰は、笑みを浮かべた口で呟いた。