~2012

そこに至る、までの

力を入れないのは、入れる勇気がないから。入れたって大したことにはならない、傷も残らないだろうけれど、彼の苦しむ姿を見たくなかった。これ以上苦しんで欲しくなかった。触れた喉が、唾と息を呑み込んで動く。矛盾していることなんて、わかっている。

あたたかい

「、……って、拓也さん!?」「ああ、起きたのか、カズ。打ったところは大丈夫か? 痛くはないか」「え、あ、あ……うん、ちょっと痛い、かも……」気がつくと大きな背中に揺られていて、実を云うと、本気で死ぬほど驚いた。起きたのを隠してもう一度寝るか…

理由などありえません

「……なぁ、ちょっと」 「ん? どうかしたか」 「すげぇ恥ずかしいんだけど」 繋がれた右手。身長と年齢差を考えて、どこから見ても親族にしか見えないんじゃないかなぁ、と思う。

他愛なく

声は出さずに息と唇の動きだけでそうか、と土御門は呟いた。 「殺したら、死ぬんだ」 「いや、死なねえけど」 「は?」 「お前にだけは殺されねえ」

束縛してくれてもいいのに

幼馴染みと恋人になるのって実際にはこんな感じなんだな、とか。他人が知らない、彼についてのことを知っている優越感。成長を側で見てきても、気づいていなかった変化を知ったときの驚き。それとときどき感じる、知りすぎていることへの不安感、エトセトラ。

しんと突き刺さる

ふとしたときに耳を澄ましてしまうのは、彼らの、彼の声を聞きたいからで。それはつまり、彼がいなくなったことを気にしているからで。隣があまりにも静かなのが、痛い。思わず眉をしかめる。

理由はない

何かの滴が落ちる。ぴくりとも動かない頬に一粒だけ。彼が死ぬのを見るのはこれで二度めだ。悲しい、のだろうか。悲しいのだろう。あのときも悲しかったから。 (……本当に?)

にゃんにゃんにゃん

※猫の日ネタ「……は、え?」 思わず声が漏れるとはこのことだ。あまりの驚きに他に云うことが見つからない、とも云う。 「お前、それ」 「云うな。カミやんは何も云うな」

感傷的になりすぎた

くるくる、と中指で黒い塊を弄ぶ。口元にいつものような笑みを浮かべて。すっかりこちら側の生活にも慣れてしまったな、と溜め息を吐いた。彼は今ごろどうしているのだろうか。数日前から彼は遠征だ。

譫言に似た、愛というもの

「前から思ってたんだけどな、お前はなんでちゃんと前閉めないんだ」 呆れた顔で溜め息をつきながら、上条は土御門の浴衣を直してやる。癖なのかなんなのか知らないが、土御門は普段からやたら上半身の露出が多いと思う。

願わくば、

ふと、長方形に切ったオレンジ色の紙を手渡された。 「七夕だってさ、そういえば」 そういえば、と云うからには上条も忘れていたらしい。今日は七月六日で確かに翌日は七日で、七夕と云う行事がある。