GBF

惹かれる

青年は甲板の隅で、静かにヴァイオリンを奏でていた。昼前の甲板は人もまばらで、それに今日は大きめの依頼やそれぞれの用事で艇を抜けているものが多く、珍しいことに彼以外の誰もそこに居なかった。

抱きしめる

「つかまえた」 小さな身体は、こちらがどんな体勢でも抱きしめれば腕の中にすっぽり収まってしまう。いつもなら彼なりに無駄な抵抗をするのに、今日はされるがままだった。ベッドの上とはいえまるで借りてきた猫みたいだ。彼の名前とは関係なく。

思い出す

……ふふっ」 「なんだ……急に笑ったりして」 「いやぁ、お前もずいぶん柔らかくなったなと思ったらさ」 シエテはその微笑みを隣の男に向けると、やにわに頭をわしわしと撫でた。

心地よい熱

※学パロ /ゼヘクは高校生であるにもかかわらず一人暮らしの身だった。それは生まれ持った病のためではあるが、ゼヘク自身が決めたことだ。ときどき両親には会いに行くし、住んでいる近所にたまたまその筋の研究を嗜んでいる女性がおり、なにかあったときには頼れたので体調的にも不自由はしていなかった。

迫っては離れ

舌を絡めると生温くて、それがやけに現実感を増していた。それでも、こうしてしていることに実感は得られない。夢のなかにいるみたいな感覚が抜けないまま、頭を惚けさせ、理性の箍が外れていくのだけがはっきりとわかる。

ゆるやかな依存

※世界観が謎な吸血鬼パロ /かり、と手指の爪に歯を立てるのが、妙に艶かしく映る。それは俺が遺憾ながらこの男に惚れてしまっているからで、それゆえに、これから捕食されるということに本能的な期待を抱いていたからなのだろう。その尖った歯は指の腹に侵入して、傷口から柔らかい唇へ血が零れる。痛みは感じなかった。

片目隠れのふしぎ

じ、と。彼の左眼と視線をかち合わせる。包帯で隠れた右眼はいまだに見たことがないが、僕だって同じほうの瞳を前髪に隠している。なんとも奇妙な偶然だなあ、と思った。手を伸ばし、ごくり、音を鳴らす喉に触れる。

金木犀と百合

※学パロ /一週間の三割ほどを保健室で過ごすゼヘクにとって、養護教諭であるドランクはクラス担任と同じくらいよく見知った仲だった。 「学校じゃなくて、通信教育とかのほうが良いんじゃない」 笑いながらそう言い、教師は書かなければならないはずの書類を丸めて捨てた。

口下手なあなた

あの日、誰もが虚ろな瞳をしていた。誰もがどんな言葉を発して良いものか図りかね、何を信じれば正しいと自分で思えるのか、答えを宙空に捜していた。そんなものはないに決まっているのに。 「……パーシヴァル」

見えないものを見ようとして

行為の際、ドランクはあまり自分で脱ぎたがらない。そういえば、と思う。騎空団にいる他のエルーン族を見ていると、男女関係なく肌を露出した格好の者が多い。女子は特に見ている俺が恥ずかしくなるほど……いや、いまはどうでもいいだろう。

静かに眺めたかった

とある昼下がり、とある島のとある街。グランは酒場で冷たいオレンジジュースを頂きながら魔物討伐の依頼を受け、誰を連れて行こうなどと思案しつつ帰路についた。が、途中のベンチに見知った珍しい姿を見つけ、立ち止まる。

そして出会うふたり

「で、セルエルはどうすんだ?」 アイルストでの一件が終わり、ノイシュの行く先も決まり、グランが部屋へ少し休みに行った頃。思い出したようにビィが疑問を呈する。ノイシュはセルエルの命により騎空団での活動を続けることになったが、さてセルエルは島に残るのか、ということだ。