Fate

憂う

「神はすべての人に救いを与えるが、救いとはなんだろうか。それがわかるか?」 「どうしたんだよ? 急に」 「戯れに、貴様の考えを聞きたかっただけだ」 言峰は口元に薄く笑みを貼り付け、いつもの笑っているのかいないのかわからない視線を俺に投げた。

すこしだけ見逃して

※学パロで体育教師×保険医 「記念すべき十回目だ」 これでもかと消毒液を染みこませた綿をピンセットで摘み、それを患者の膝の傷にぐいと押しつけながら言峰は、笑みを浮かべた口で呟いた。

曖昧にしたままで

好きになどなってやるものか。首筋にひりつくような痛みを感じながら、その箇所から喉へせり上がってくるものをごくりと呑み込んだ。ややあって俺の項から唇を離した言峰は、細い指の一本一本から手のひらで俺の頬に触れて、笑った。俺はいま、とても嫌そうな顔をしているだろう。言峰がこういう人間だとは知っていたはずだが。

読まれているのか

「綺礼」 彼の声はいつだって愉しそうだ。羨ましいと思ったこともあるが、所詮その程度の感情のままいつしか忘れた。一瞥すれば彼はにやにやと笑みながら手招きをしていたから、綺礼は何も見なかった振りをする。

出会ってしまった

※綺礼の歳が中学生くらい(という設定が一応ある) こういうものを綺麗と云うのだろうな、と目の前の光を見て綺礼は淡々と思った。頭に乗った手は生温かく、ヒトの体温を伝える。こんなに人間離れした外見をしているのに。 「可愛げのないやつめ」

終わりのない自己分析とか

子供の頃に一度だけ、もしかしたら自分は人間ではなく悪魔なのかもしれないと思い、親の部屋から密かに持ち出して聖水を頭から被ったことがある。ただやはりそれは自分に対してはただの水であり(悪魔なんてものが現世にいるかは定かでないからそれが聖水なのか正確ではないが)、被れば体が濡れるだけであった。

ある結果へ至るまで

師よ、あなたは死を怖れぬのですか、と尋ねたときの答えを覚えていない。ただ、君はどうなのかね、と聞かれたことは覚えている。綺礼は一言わかりませんと答えて苦笑され、その会話は終わった。それは覚えている。彼はどう答えたのだっただろう。不意に思い出して、気になった。

重なる面影

傷をつけないようにそっと、力の加減に気をつけながら、指で緩く束ねた銀髪に櫛を通す。彼女の面影を感じずにはいられなかった。いつも正面からあの幼い表情を見ているときには気づかない、イリヤスフィールの母親の面影。