変わらぬさだめ
彼は俺の腕を掴んだかと思えば、驚いて思わず開いた手の平を彼自身の喉に押しつけた。
「拓也」
「…どうしたんだ、檜山」
「殺してくれ。もう」
~2012 文章ダン戦,蓮拓,~2012
理由を聞けたら
檜山のその笑顔は、ときどき拓也に違和感を感じさせた。ときどき、本当に空虚なのだ。瞳の中はただ何もない伽藍洞になっていて、そう、云ってしまうなら人間のものではないような。
~2012 文章ダン戦,蓮拓,~2012
淋しがりと煙草
ライターで火を点けてから、煙草の煙は嫌いだと云っていたあいつの顔が浮かんだ。いまとなっては無意識のうちでやっていることだが、独りでいるときだけ吸うようになったのは、そういえばそのせいだ。
~2012 文章ダン戦,蓮拓,~2012
つまり、愛してるってこと
「……暑いよな、絶対」
「いや全く」
「嘘をつけ、嘘を! と云うか俺が暑い」
「うるさい、耳のすぐ近くで叫ぶな」
~2012 文章ダン戦,蓮拓,~2012
いっそすべて忘れてしまえば
「俺たちのしていることは、本当に意味があるんだろうか」「どういうことだ?」「目標に近づくたびに思う。俺たちが海道義光を打ち倒しイノベーターを崩壊させ、そうして世界はどうなるのか」「ばかな、奴らはエターナルサイクラーを悪用しようとしているんだ…
~2012 文章ダン戦,蓮拓,~2012
世界はもうやさしくない
「拓也」
呼ばれると、兄を思い出してずきりと胸が痛んだ。拓也をただ拓也と呼ぶ人物は、もうこの世には檜山蓮の他にいない。
~2012 文章ダン戦,蓮拓,~2012
ただ短い言葉だけでいい
目覚めて初めに見たのは、知らない天井だった。頭がずきずき音を立てて痛む。昨日の記憶がない、これはまさか。思うけど、頭は上手く回ってくれない。
「……くそ」
~2012 文章ダン戦,蓮拓,~2012
きみの手のひらは優しすぎるんだ
「今がどういう状況か、わかっているのか」
「わかっている。だから少し、肩の力を抜けと云っているんだ」
「それがどうしてこうなる」
~2012 文章ダン戦,蓮拓,~2012