臨静

本能と云う名の必然

もう記憶は戻ったりしないと、理由はなくもわかる。そもそも失くしてしまったものを何の努力もせず取り戻そうなんておかしい話だ。何かのきっかけで戻ることもあるそうだが、失くしてから数ヶ月、戻らなくともいいか、と思うようになってきた。――記憶喪失ネタ⑥(完結)

揺れ動く否と肯

それで、一体どうして俺はこいつと一緒に夕飯を食っているのか。こいつは俺に飯を作らせにわざわざ来たのか。なんだかんだで2人分作ってしまった俺も俺だが、せめて手伝いくらいはしろ。――記憶喪失ネタ⑤

不似合いセンチメンタリティ

……あ? と、声が漏れた。後ろから誰かに呼ばれた気がしたのだ。立ちどまり振りかえると、誰もいない。ポケットから出しかけた拳を持てあます。あんな呼び名で呼ぶ男は、この世に1人しか存在しないはずだった。――記憶喪失ネタ④

いっそ喋らなければいいのに

別に俺だってこんな風になりたくてなったわけじゃない。すべてこの力のせいだなんてことは云えないけど、それは云いたい。近寄る奴をなくすためだ、と臨也に云ったらばかにされた。

部外者は所詮部外者

あいつはいつものように笑わない。大嫌い、死ね、どうして生きてる、俺たちが会えば息をするように吐いていた言葉を吐かない。情報屋として仕事をして金をもらって企みごとをして、生きている。――記憶喪失ネタ③

The important thing which I have dropped.

新羅のところに戻ったら、「あ、良かった、どこも怪我してないね。頭蓋骨粉砕くらいされるかなあって冷や冷やしてたんだけど」とかにこにこしながら物騒なことを云われて(そんなことされたら普通に死ぬじゃないか)、何か思い出した?と笑顔はそのままで聞かれた。――記憶喪失ネタ②

未だ酔いは覚めない

愛してる、とか云う言葉は俺のなかで軽くトラウマになっているのかもしれない。耳もとで囁かれるそれに、ぞわりと毛を逆立たせる。妖刀とやらの罪歌を思いだすからだ。

君にいちばん近い距離

犬だ。見たところ、まだ仔犬っぽい。首輪はついているから飼い犬だろう。まあ、今のご時世しかも都会で、野良犬などそうは見かけない。恐らくは飼い主とはぐれて彷徨っていたのだろう。