禁書

他愛なく

声は出さずに息と唇の動きだけでそうか、と土御門は呟いた。 「殺したら、死ぬんだ」 「いや、死なねえけど」 「は?」 「お前にだけは殺されねえ」

束縛してくれてもいいのに

幼馴染みと恋人になるのって実際にはこんな感じなんだな、とか。他人が知らない、彼についてのことを知っている優越感。成長を側で見てきても、気づいていなかった変化を知ったときの驚き。それとときどき感じる、知りすぎていることへの不安感、エトセトラ。

しんと突き刺さる

ふとしたときに耳を澄ましてしまうのは、彼らの、彼の声を聞きたいからで。それはつまり、彼がいなくなったことを気にしているからで。隣があまりにも静かなのが、痛い。思わず眉をしかめる。

理由はない

何かの滴が落ちる。ぴくりとも動かない頬に一粒だけ。彼が死ぬのを見るのはこれで二度めだ。悲しい、のだろうか。悲しいのだろう。あのときも悲しかったから。 (……本当に?)

にゃんにゃんにゃん

※猫の日ネタ「……は、え?」 思わず声が漏れるとはこのことだ。あまりの驚きに他に云うことが見つからない、とも云う。 「お前、それ」 「云うな。カミやんは何も云うな」

感傷的になりすぎた

くるくる、と中指で黒い塊を弄ぶ。口元にいつものような笑みを浮かべて。すっかりこちら側の生活にも慣れてしまったな、と溜め息を吐いた。彼は今ごろどうしているのだろうか。数日前から彼は遠征だ。

譫言に似た、愛というもの

「前から思ってたんだけどな、お前はなんでちゃんと前閉めないんだ」 呆れた顔で溜め息をつきながら、上条は土御門の浴衣を直してやる。癖なのかなんなのか知らないが、土御門は普段からやたら上半身の露出が多いと思う。

願わくば、

ふと、長方形に切ったオレンジ色の紙を手渡された。 「七夕だってさ、そういえば」 そういえば、と云うからには上条も忘れていたらしい。今日は七月六日で確かに翌日は七日で、七夕と云う行事がある。

祈りは届かなくとも

「土御門って指細いよなー、俺のと全然違う」 そりゃそっか、器用だもんな、とよくわからない自己完結をする上条。対して彼の手は至って普通の男子高校生と同じ、ある程度完成されてがっしりしたものだった。

触れ方をしらないのはお互いさま

「お前は……どうなんだよ」 土御門の肩を強めに掴んで離さないまま、これ以上ないほど真面目な顔で上条は尋ねる。その目にはいつもとは少し違う輝きが宿っていて、見つめていて目眩を起こすほど眩しくて、それでも土御門は、彼のために目を逸らさなかった。

誰がための葛藤

「幸せなのか?」 「くだらねェことを聞くンじゃねェよ」 そう吐くと、土御門はくすりと笑った。ばかにされているようで腹が立つ。そうではないとわかっていても。

詰まるところ、静寂

じりじり、肌の焦げる音が聞こえそうなくらい日射しが強い。8月の半ばと云えば当然なのだが、手に持った棒アイスが溶けるのは困る。でも部屋にいれば風がなくてそれはそれで暑いし、と云った具合。