他愛なく
声は出さずに息と唇の動きだけでそうか、と土御門は呟いた。
「殺したら、死ぬんだ」
「いや、死なねえけど」
「は?」
「お前にだけは殺されねえ」
~2012 文章上土,禁書,~2012
しんと突き刺さる
ふとしたときに耳を澄ましてしまうのは、彼らの、彼の声を聞きたいからで。それはつまり、彼がいなくなったことを気にしているからで。隣があまりにも静かなのが、痛い。思わず眉をしかめる。
~2012 文章上土,禁書,~2012
理由はない
何かの滴が落ちる。ぴくりとも動かない頬に一粒だけ。彼が死ぬのを見るのはこれで二度めだ。悲しい、のだろうか。悲しいのだろう。あのときも悲しかったから。
(……本当に?)
~2012 文章上土,禁書,~2012
にゃんにゃんにゃん
※猫の日ネタ「……は、え?」
思わず声が漏れるとはこのことだ。あまりの驚きに他に云うことが見つからない、とも云う。
「お前、それ」
「云うな。カミやんは何も云うな」
~2012 文章上土,禁書,~2012
感傷的になりすぎた
くるくる、と中指で黒い塊を弄ぶ。口元にいつものような笑みを浮かべて。すっかりこちら側の生活にも慣れてしまったな、と溜め息を吐いた。彼は今ごろどうしているのだろうか。数日前から彼は遠征だ。
~2012 文章上土,禁書,~2012
譫言に似た、愛というもの
「前から思ってたんだけどな、お前はなんでちゃんと前閉めないんだ」
呆れた顔で溜め息をつきながら、上条は土御門の浴衣を直してやる。癖なのかなんなのか知らないが、土御門は普段からやたら上半身の露出が多いと思う。
~2012 文章上土,禁書,~2012
願わくば、
ふと、長方形に切ったオレンジ色の紙を手渡された。
「七夕だってさ、そういえば」
そういえば、と云うからには上条も忘れていたらしい。今日は七月六日で確かに翌日は七日で、七夕と云う行事がある。
~2012 文章上土,禁書,~2012
祈りは届かなくとも
「土御門って指細いよなー、俺のと全然違う」
そりゃそっか、器用だもんな、とよくわからない自己完結をする上条。対して彼の手は至って普通の男子高校生と同じ、ある程度完成されてがっしりしたものだった。
~2012 文章上土,禁書,~2012
触れ方をしらないのはお互いさま
「お前は……どうなんだよ」
土御門の肩を強めに掴んで離さないまま、これ以上ないほど真面目な顔で上条は尋ねる。その目にはいつもとは少し違う輝きが宿っていて、見つめていて目眩を起こすほど眩しくて、それでも土御門は、彼のために目を逸らさなかった。
~2012 文章上土,禁書,~2012
詰まるところ、静寂
じりじり、肌の焦げる音が聞こえそうなくらい日射しが強い。8月の半ばと云えば当然なのだが、手に持った棒アイスが溶けるのは困る。でも部屋にいれば風がなくてそれはそれで暑いし、と云った具合。
~2012 文章上土,禁書,~2012
その姿に触れたいと思うのが
よく聞くが恋と云うものは複雑でしかし単純なものだ。どんな紆余曲折があったとして、一目惚れだって友情の延長線だってそのときの気持ちは結局「好き」の一言以外には表せない。と思う。
~2012 文章上土,禁書,~2012
積極的じゃない彼へ
箸で掴んだ自作ミニハンバーグを土御門の口に運びつつ、上条は非常に複雑な表情をする。
やっべー財布忘れちゃったなーとか云いそうな顔で、しかし云わずあからさまにこちらを見ているものだから、性分的に放ってはおけなかったのだ。
~2012 文章上土,禁書,~2012