ダン戦

好きだから、愛しているから、

拓也さんはどこか、何かに怯えているように見えた。八神さん、と呟く声も震えているようで。しかし質問するのも野暮な気がして、開こうとした唇を閉じてそのまま、彼のそれに重ねる。彼をそこまで追いつめているのはなんなのだろうか。

不完全なひとの方が愛しい

「拓也さん」社長室は広い。広すぎてここに一人でいるのは少し寂しいことなんじゃないかと思う。彼は強い大人だから何も思わないのだろうけど。あ、でも普段は一人じゃなくて、あの霧野さんもいるのか。そう思うと何故か少しもやもやする。「……拓也さーん、…

そこに至る、までの

力を入れないのは、入れる勇気がないから。入れたって大したことにはならない、傷も残らないだろうけれど、彼の苦しむ姿を見たくなかった。これ以上苦しんで欲しくなかった。触れた喉が、唾と息を呑み込んで動く。矛盾していることなんて、わかっている。

あたたかい

「、……って、拓也さん!?」「ああ、起きたのか、カズ。打ったところは大丈夫か? 痛くはないか」「え、あ、あ……うん、ちょっと痛い、かも……」気がつくと大きな背中に揺られていて、実を云うと、本気で死ぬほど驚いた。起きたのを隠してもう一度寝るか…

理由などありえません

「……なぁ、ちょっと」 「ん? どうかしたか」 「すげぇ恥ずかしいんだけど」 繋がれた右手。身長と年齢差を考えて、どこから見ても親族にしか見えないんじゃないかなぁ、と思う。