~2018

2018年までに書いたもの

 

  • 愚かなミザリー

    その微笑みを見ると、妙に寂しくなって。とてもいやなことに、誰かさんと重なってしまうのだ。もういない誰かと、いま目の前にいる人と。 視界がぼやけていく。唇が震えて、言葉を紡げなくなってしまう。

  • 美辞麗句というもの

    キミの瞳がキレイだから、などと臆面もなく言えるのは文化の違いなのか。それにしたって近いです、近いですよホームズさん。そう言うと、わかったよ、と答えて彼は少し離れる。正直な話ぼくからしたら、この人の瞳はキレイすぎて見ていられないくらいだ。このへんの感覚も、文化の違いなんだろうか。

  • ひとつずつ重ねていく

    寝静まった部屋のなかで、ひとり目を覚ます。隠れ家は当然常灯もなく真っ暗で、瓦礫のような壁の隙間から一筋、月の光だけが差し込んでいた。いつの間にか寝てしまった、と思い出しながら、二人も同じだったのだなと状況を見てヴォルフは思う。

  • 野に咲く花に想いを馳せ

    荒廃した大地の中に、ひとつだけ、白い花がぽつんと咲いていた。寂しい、とも思うし、気丈だな、とも思う。しかしこの花は決してひとりではなく、そもそも土がなければ咲けないどころか根を張ることもできないし、雨がなければ育たないのだから、結局彼だか彼女だかは運が良かっただけの代物だ。

  • 滔々と流れる時間

    士郎、という名前を誰が呼ぼうと、その名前はとっくに俺のものではない。爺さんが呼んでいたその名前を、俺はもう自分の名前だと思っていなかったのだ。ならば俺のみを示す名前はどこにあるのだろう。……エミヤ。爺さんが持っていたのと同じものだが、それでもいいかもしれない。

  • どこかで見たような

    「くだらぬ願いであれば、貴様の命で贖ってもらうぞ、雑種」 当然のように言い放った金髪の、血のように紅い両眼をした青年は、英雄王ギルガメッシュというらしかった。

  • スリーピング・ビューティ

    彼の黒髪はこの上なくきれいだ。昔は茶色に染めていたときもあったが、改めて見るとこのほうが似合っている。それに指を通しながら、首筋に口づけた。頭上で彼が笑う。

  • 巣立ち

    「……なんだかさ、息子が独り立ちしちゃったみたいな、そんな感じ」 「彼はそんな歳ではないだろう」 「じゃあ、弟かな。でも、娘の兄なんだから、やっぱり息子だ」 気怠げにソファに横たわる成歩堂は、何処か拗ねていた。

  • 心地よい熱

    ※学パロ /ゼヘクは高校生であるにもかかわらず一人暮らしの身だった。それは生まれ持った病のためではあるが、ゼヘク自身が決めたことだ。ときどき両親には会いに行くし、住んでいる近所にたまたまその筋の研究を嗜んでいる女性がおり、なにかあったときには頼れたので体調的にも不自由はしていなかった。

  • 迫っては離れ

    舌を絡めると生温くて、それがやけに現実感を増していた。それでも、こうしてしていることに実感は得られない。夢のなかにいるみたいな感覚が抜けないまま、頭を惚けさせ、理性の箍が外れていくのだけがはっきりとわかる。

  • ゆるやかな依存

    ※世界観が謎な吸血鬼パロ /かり、と手指の爪に歯を立てるのが、妙に艶かしく映る。それは俺が遺憾ながらこの男に惚れてしまっているからで、それゆえに、これから捕食されるということに本能的な期待を抱いていたからなのだろう。その尖った歯は指の腹に侵入して、傷口から柔らかい唇へ血が零れる。痛みは感じなかった。

  • 片目隠れのふしぎ

    じ、と。彼の左眼と視線をかち合わせる。包帯で隠れた右眼はいまだに見たことがないが、僕だって同じほうの瞳を前髪に隠している。なんとも奇妙な偶然だなあ、と思った。手を伸ばし、ごくり、音を鳴らす喉に触れる。

  • 金木犀と百合

    ※学パロ /一週間の三割ほどを保健室で過ごすゼヘクにとって、養護教諭であるドランクはクラス担任と同じくらいよく見知った仲だった。 「学校じゃなくて、通信教育とかのほうが良いんじゃない」 笑いながらそう言い、教師は書かなければならないはずの書類を丸めて捨てた。

  • 口下手なあなた

    あの日、誰もが虚ろな瞳をしていた。誰もがどんな言葉を発して良いものか図りかね、何を信じれば正しいと自分で思えるのか、答えを宙空に捜していた。そんなものはないに決まっているのに。 「……パーシヴァル」

  • 見えないものを見ようとして

    行為の際、ドランクはあまり自分で脱ぎたがらない。そういえば、と思う。騎空団にいる他のエルーン族を見ていると、男女関係なく肌を露出した格好の者が多い。女子は特に見ている俺が恥ずかしくなるほど……いや、いまはどうでもいいだろう。

  • 静かに眺めたかった

    とある昼下がり、とある島のとある街。グランは酒場で冷たいオレンジジュースを頂きながら魔物討伐の依頼を受け、誰を連れて行こうなどと思案しつつ帰路についた。が、途中のベンチに見知った珍しい姿を見つけ、立ち止まる。

  • そして出会うふたり

    「で、セルエルはどうすんだ?」 アイルストでの一件が終わり、ノイシュの行く先も決まり、グランが部屋へ少し休みに行った頃。思い出したようにビィが疑問を呈する。ノイシュはセルエルの命により騎空団での活動を続けることになったが、さてセルエルは島に残るのか、ということだ。

  • いつか出逢うふたり

    この艇には、因縁がある者同士はなかなか出会わないという都市伝説めいたものがあった。みんなそれに気づきつつ、しかし本人たちに伝えることはしない、という性質のせいもあるだろう。みんな大人であるか、気づきすらしない幼い子たちしかいないからだ。

  • 鋼刃にうつるもの

    バルツの店には、流石はドラフの国というか、剣から楽器までかなりの業物が揃っている。話には聞いていたが目の当たりにしたのはまったく初めてで、決して武器マニアではない俺でも圧倒されてしまった。やはり店ごとに専門は違うようだが、どこに行っても目を見張るものばかりで、疲れてしまうくらいだ。

  • 翻弄される

    「ええ、いいじゃん。たまに会ったときくらい」 「そう、じゃなくてだな……か、顔を近づけるな……!」 鼻の頭同士がぶつかる。というほど勢いはないが、ゼヘクにとって大事なのはそこまでの至近距離に想い人がいるということだ。

  • そして時は流れた

    僕は、ルシウスのそういうところが好きだ。グランはそう呟いて、相手の背中に額を触れさせた。同時に指がそこにある傷をなぞる。

  • 罪悪感に似たなにか

    「……ちょっと、待ってくれ」 少し、少しの謝罪をしてすぐ去るはずだった。案の定彼はそれを許してくれなかったみたいで、僕がいつも身につけているマントの裾を引き、そう強い力でなくても逃げられないような雰囲気をつくっていた。

  • 終わりある光を想う

    気がつくと窓枠に肘を置いて、空を見ていた。亡くなった人間が星になるなどという話は当然信じていなかったが、彼を探すとどうしても上を見てしまう。まさか地上にいるわけもないのだから。

  • 月は満ち欠ける

    いつか、幼かった日に。ずっと一緒にいたいと初めて願ったのは、まだ友情しか感じていなかったころだったか。正直なところ自分はあのときから随分と変わってしまって、三日月のほうは何も変わっていない、とオルガは思う。冷たい無機質な目も、温かく微笑む目も。

  • 間近に刺さる

    「……性急だ!」 アインはきょとんとして、しばし俺の瞳を見つめたあと、ようやく理解したように声をあげた。 「ですが……どうすれば」

  • たとえ何をなくしても

    少し長め /「……こりゃあ、もう駄目かもな」 リディさんが呟いたが、おれはまだ諦めていない。目の前に広がる赤と紫の金属片の間に、目を引く黄色をした脱出用ポッドがある。飛び出すようにコクピットから出て、その中へはしかしゆっくりと入る。

  • 他でもないあなたに

    ※現パロ 『会いたい、と言ったら、あんたは会いに来てくれるのか?』 電話の向こうで、くすりと笑うのが聞こえた。一応彼のほうが年下ではあるはずなのに、なぜかいつもこうだ。主導権を握られている、と思う。それは彼が持つある種のカリスマのせいなのだろうか。