その腕に包まれると温かくて、すべてを肯定されるような気分になる。つくづく温もりというのは不思議だ。それ自体で人を安心させてしまうし、それを得るためにはある簡単な行動だけで良かったり、時折その簡単なはずの行動がとても難しく感じたりする。頰をすり寄せたくなったが、それは子どものすることだ。俺はもう子どもじゃない。それくらいはわかっている。
「落ち着いたか?」
背中をぽんぽんと軽く叩かれて、はっと我にかえった。改めて自分の状況を理解すると、唐突に恥ずかしさが襲ってくる。
「わ、悪い。もう大丈夫だから……」
慌てて離れようとするが、肩のあたりからしっかりホールドされていて抜け出せない。相手がどんな表情をしているかは見えなかった。代わりに声がすぐ近くから降ってくる。
「無理しなくて良い。たまには、こうやって発散しないと」
優しい声だった。いつもの通り、決して楽な道のりでない旅にほんのひととき安らぎを与えてくれるもの。その言葉にまた色々な記憶が蘇って、喉が詰まり、鼻の奥がつんとした。俺たちが失ったものは多く、どれも大きなものばかりだ。その埋まらない欠落をなんとかして埋めようとしている。このある種空虚な抱擁は、そのためのものだ。ただ受容することで、痛みを少しでも和らげるための。
「……っ、俺も、いつか……」
アンタに痛みが与えられる日が来たなら、それを受け入れ、分け合うことができるだろうか。そんな風に考えながら、温もりの中で目を閉じた。